【現代語訳】2
姫君が心細い有様でいらっしゃるので、帝は「ただ、わが皇女たちと同列にお思い申そう」と、たいそう丁重に礼を尽くして申し上げあそばす。お仕えする女房たちや、御後見人たち、ご兄弟の兵部卿の親王などは、「こうして心細くおいでになるよりは、内裏でお暮らしになって、きっとお心が慰むように」などとお考えになって、参内させ申し上げなさった。
藤壺と申し上げる。なるほど、ご容貌や姿は不思議なまでによく似ていらっしゃる。この方は、ご身分も一段と高いので、そう思って見るせいか素晴らしくて、お妃方もお貶め申すことがおできになれないので、誰に憚ることなく何ひとつ不足ない。亡くなった更衣は、周囲の人がお許し申さなかったところに、御寵愛があいにくと深かったのである。帝のお悲しみが紛れるというのではないが、自然とお心が移って行かれて、格別にお心がお慰みになるようであるのも、哀しい人情のさがというものであった。
《姫君の入内に反対だった母后が亡くなると、兄の勧めなどもあって、いよいよこの姫君の入内ということになります。
勧めた人が、普通なら位の上から順に書かれそうなところですが、「お仕えする女房たちや、御後見人たち、ご兄弟の兵部卿の親王など」という逆順になっているのがおもしろいところです。
それは該当する人の数の多い順であり、日常身近にいる順ですが、読者は、おそらく入内してほしいと強く思う順なのだろうと思うことになります。
ということは、逆に言えば、姫君のことを案じる度合いの薄い順ということでもあるでしょう。女房たちは姫が入内すれば、自分達が宮廷の華やかな生活ができると期待したでしょうし、後見人は姫君の入内によって生じる自分達の利益を考えたに違いありません。兄宮は、恐らくは母君と同様の不安を抱きながら、母君のように彼らを抑えることができずに、周囲の意を受けて姫君に最後の話をしたのです。
藤壺というのは後宮の一室である飛香舎の別名で、弘徽殿と並んで帝の居所に最も近い部屋です。先帝の姫君だから、そういう待遇を得たわけですが、故更衣が最も遠い部屋だったのと対照的です。
さて、かわいい姫君を得て帝の心は安らぐのですが、それを「哀しい人情のさが(原文・あはれなるわざ)」と書くのは、この場合、明らかに女性の視点からなのであって、作者の女性としての哀しみが漏れ出た部分と思われます。》