【現代語訳】
いろいろのお琴をお教え申し上げなどして、三、四日籠もっておいでになって、御物忌などにかこつけなさるのを、あちらの殿におかれては恨めしくお思いになって、大臣は、宮中からお出になってそのまま、こちらに参上なさったので、宮は、
「仰々しい様子をして、何のためにいらっしゃったのだろう」と、不快にお思いになるが、寝殿にお渡りになって、お会いなさる。
「特別なことがない間は、この院を見ないで長くなりましたのも、しみじみと感慨深い」などと、昔のいろいろなお話を少し申し上げなさって、そのままお連れ申し上げなさってお出になった。
ご子息の殿方や、その他の上達部、殿上人なども、たいそう大勢引き連れていらっしゃる威勢が、大変なのを見ると、並びようもないのが、がっかりした。
女房たちが覗いて拝見して、
「まあ、美しくいらっしゃる大臣ですこと。あれほど、どなたも皆、若く男盛りで美しくいらっしゃるご子息たちで、似ていらっしゃる方もありませんね。何と、立派なこと」という者もいる。また、
「あれほど重々しいご様子で、わざわざお迎えに参上なさるのは憎らしい。安心できないご夫婦仲ですこと」などと、嘆息する者もいるようだ。
ご自身も、過去を思い出すのをはじめとして、あのはなやかなご夫婦の生活に肩を並べやってゆけそうにもなく、存在感の薄い身の上をと、ますます心細いので、
「やはり気楽に山里に籠もっているのが無難であろう」などと、ますます思われなさる。とりとめもなく年が暮れた。
《匂宮は、六の君と結婚してまだ三か月余りにしかならないのですが、この「三、四日(二条院に)籠って」しまいました。こちらでは「自分の思うままに事を運ぶことができる。…六の君の所に行くと、はなやかであり、大事にされるが、夕霧右大臣が主人である」と『評釈』が説明しますが、もちろん「女らしくなってゆく」(同)中の宮の魅力を忘れてはなりません。
夕霧右大臣の方は穏やかではありません。家と娘の名誉のために、直々に迎えにのり込んで来ました。「宮中からお出になってそのまま」ですから、「参内の服装(正装)であり、供ぞろいが正式であり、子供たちや、その他の上達部、殿上人が付き従って」(同)います。
「仰々しい」とは言ってみても、まさかこれをそのまま帰すことはできませんから、匂宮も従うしかありません。
夕霧は久々の二条院ですから、「しみじみと感慨深い」というのも、単に挨拶だけではないでしょうが、そうした何気ない話をしただけで、さしたることも言わないで、ごく自然に匂宮を促し「そのままお連れ申し上げ」てしまいました。
疾風が飛び込んできて、主人をさらわれてしまった後の二条院は、がらんとして、みな力が抜けたようになっています。