源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第四章 中の宮の物語(二)

第八段 匂宮、中の宮を重んじる

【現代語訳】

 無理を押してお越しになっては、長くもいないでお帰りになるのが物足りなくつらいので、宮はひどくお悩みになっていた。お心の中をご存知ないので、女の側では、

「またどうなるのだろうか。物笑いになりはせぬか」と思ってお嘆きなるので、なるほど、気苦労の絶えない、気の毒なことと見える。
 京にも、こっそりとお移りになる家もさすがに見当たらない。六条院には、左の大殿が一画にお住みになって、あれほど何とかしたいとお考えの六の君の御事をお考えにならないので、何やら恨めしいとお思い申し上げていらっしゃるようである。好色がましいお振舞いだと、容赦なくご非難申し上げなさって、宮中あたりでもご愁訴申し上げていらっしゃるようなので、ますます、世間に知られない人をお迎えになるのも、憚りが大層多い。
 普通にお思いの身分の者は、宮仕えということで、かえって気安そうである。そういう並の女にはお思いになれず、

「もし御世が替わって、帝や后がお考えおきのようにでもおなりになったら、誰よりも高い地位に立てよう」などと、ただ今のところは、たいそうはなやかに、心に懸けていらっしゃるままに、して差し上げるような手立てがなくつらいのであった。
 中納言は、三条宮を造り終えて、

「しかるべき形をもってお迎え申そう」とお考えになる。

「なるほど、臣下は気楽なのであったよ。このようにたいそうお気の毒なご様子でありながら、気をつかってお忍びになるために、お互いに思い悩んでいらっしゃるようなのも、おいたわしいので、人目を忍んでこのようにお通いになっている事情を、中宮などにもこっそりとお耳に入れ申して、暫くの間お騒がれなさるのは気の毒だが、女方にとっては非難されることもないだろうし、ろくにこのように夜をさえお明かしにならないつらそうなようすであることだ。うまく計らって差し上げたいものよ」などと思って、無理して隠さない。
「衣更など、てきぱきと誰がお世話するだろうか」などと心配なさって、御帳の帷子や壁代など、三条宮を造り終えて、お移りになる準備をなさっていたのを、

「差し当たって、入用がございまして」などと、たいそうこっそりと申し上げなさって、差し上げなさる。いろいろな女房の装束は、御乳母などにもご相談なさっては、特別にお作らせになったのであった。

 

《前段までは「九月十日のころ」(第六段)の話でしたが、ここはそれも含めてその後も宮の訪れ一般に、という話のようです。「無理を押してお越しになっては」久々の訪れでも、二人にとって夜明けはいつも早く、匂宮は、もう帰らなくてはならないのかとたまらなくつらく思っているのですが、中の宮は「お心の中をご存知ないので」、「男に捨てられて、世間から笑われないか」(『評釈』)と、そのことばかりを考えています。

 前掲論文「匂宮と中の宮」(第三章第七段1節)は、宮の中の宮に対する愛情の真摯さを言っていて、確かにここでも宮は「無理を押してお越し」なのですが、実はそれに加えて、同論文は「匂宮という人物は、八の宮や姫君たちからはもちろんのこと、母中宮、帝からもその真実の姿を理解されない、という設定になっている」として、「匂宮の内実は…どこまでも姫君たちに響いていかない」ことになると言います。

 そうした中で宮は、この愛しい中の宮をどう処遇してやろうかと、一人思案しています。

 京に迎えるのが一番いいのですが、六条院では夕霧がいて、六の君との話を避けていることで「憚りが大層多い」、後のことを考えなければ宮仕えをさせればいいのだが、いつかできれば正室に迎えたいので、それもできない、…。薫は三条邸ができたら大君をそこに迎えようと考えていて、「なるほど、臣下は気楽なのであった」と作者が言います。

 その薫が、友人の悩みに一肌脱ごうと、さまざまに手を打ちます。案外そっと中宮あたりには話してしまった方がいいかも知れない、ちょっとした一時の騒ぎにはなるかもしれないが、なればなったで、それで既成事実にしてしまうこともできる、とちょっとした策略も混じります。一方中の宮には、匂宮へ送る衣更えの品々を届けもします。万事、手抜かりはありません。》

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第七段 薫、大君に対面、実事なく朝を迎える~その2

【現代語訳】2

 宮のご様子などをお尋ね申し上げなさると、ちょっとほのめかしつつ、そうだろうとお思いになるようにおっしゃるので、お気の毒になって、ご執心のご様子や態度を窺っていることなどを、お話し申し上げなさる。
 いつもよりは素直にお話しになって、
「やはり、このように物思いを重ねていますので、もう少し気持ちが落ち着いてからお話し申し上げましょう」とおっしゃる。小憎らしくよそよそしくはあしらわないものの、襖障子の戸締りもとても固い。無理に破るのは、辛く酷いこととお思いになっているので、

「お考えがおありなのだろう。軽々しく他人になびきなさるようなことは、また決してあるまい」と、心のおっとりした方は、さすがに実によく気を落ち着かせなさる。
「ただ、とても頼りなく、物を隔てているのが満足のゆかない気がしますよ。以前のようにお話し申し上げたい」とお責めになると、
「いつもよりも『わが面影に恥づる(物思いに容貌もやつれたような気のする)』ころなので、疎ましいと御覧になるのも、やはりつらく思われますのは、どうしたことでしょうか」と、かすかにほほ笑みなさった様子などは、えも言えず慕わしく思われる。
「このようなお心にだまされ申して、結局はどのようになる身の上だろうか」と嘆きがちに、例によって「遠山鳥(一緒に寝ることもしない)」で別々のまま明けてしまった。

宮は、まだ独り寝だろうとはお思いならず、
「中納言が、主人方でゆったりとしている様子が羨ましい」とおっしゃると、女君は、おかしなこととお聞きになる。

 

《薫は匂宮が通って来ているかどうかを尋ねました。もちろん知ってはいるのですが、話のできる話題を求めてのことでしょう。この話なら乗ってもらえそうです。

大君が訪れのなかったことを遠慮がちに話すのを聞いて、薫は、宮が都でどれほど中の宮のことを恋しく思って自分に訴えているかを話して聞かせます。それは大君にとってうれしい話で、心も和み、少し言葉を交わすのですが、長くそうしていると、また薫が迫ったりすると困るので、失礼にならない程度でそっと身を引く格好です。

薫も、恨み言は言うのですが、三回の失敗に懲りたということもあるのでしょうか、今夜は無理強いせず、そのまま夜を明かしました。

その中で薫は、かつて一夜を二人向き合って過ごした(第一章第五段)ように親しく話したいと訴えるのですが、今夜の大君は、物思いにやつれた顔を見られるのつらく感じるようになったと拒むのですが、そういう自分を彼女自身いぶかしく思うのでした。

いや、「『どうしたことでしょうか』と、かすかに微笑みなさった」という彼女は、もう、この疑問文はほとんど意味をなさず、自ら薫への思いを語っていると言ってもいいのかもしれません。

『評釈』がこの時の大君の心を「永遠に今の状態でいたい。…一歩でも進めば、くずれる、失われる、と思う心があるのであろう。…恨んだりさげすんだりといった心をつかいたくない。そしてあのひとにいつまでも好かれていたい。ただ一人知っている男に対する、姫宮の心である」、と語ります。

薫が「えも言えず慕わしく」思ったのは、それをまっすぐに受とけ止めたのだというように読みたい気がしてきます。

さてこちらは匂宮と中の宮です。薫と大君が「遠山鳥」の夜明けなどとは思いもよらない匂宮は、薫が自分とは全く違う親しい特別待遇で、姫の側近くにいられることを羨んで中の宮に語るのですが、中の宮は、何のことかといぶかしく思うばかりです。

このことは、薫と大君の間柄がいかに特殊な間柄であるということを物語っています。》

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第七段 薫、大君に対面、実事なく朝を迎える~その1

【現代語訳】1

 宮を場所相応にとても特別に丁重にお迎え入れ申し上げて、この君は主人側として気安くおもてなしになるがまだ客人席の仮の間に遠ざけていらっしゃるので、まことにきびしいことよと思っていらっしゃる。お恨みなさるのもさすがにお気の毒で、物越しにお会いになる。
「『たはぶれにくき(戯れてなどいられないほど恋しい気持ち)』なのですよ。こうしていつまで」と、ひどくお恨み申し上げなさる。だんだんと道理をお分かりになってきたが、妹のお身の上のことでも物事をひどく悲観なさって、ますますこのような結婚生活を嫌なものとすっかり思い込んで、
「やはり決して何とかこのようには打ち解けまい。うれしいと思うお方のお気持ちも、きっとつらいと思うようになるにちがいない。自分も相手も幻滅したりせずに、もとの気持ちを失わずに、最後までいたいものだ」と思う考えが深くおなりになっていた。

《大君は、匂宮は客分として丁重にもてなしますが中の宮の部屋に招じ入れ、一方薫は身内同然に気安く親しく迎えていますが、依然として「客人席の仮の間に遠ざけられて」いる(『集成』は「廂の間に招じられているのであろう」と言います)のであって、決して近づくことは許していません。そうしながら、薫が恨めしく思っていることは分かるので、相手をしないものではなく、「物越しに」は応対します。

彼女は、妹が宮の訪れを待ちわびて胸を傷めていたのを見ていて、結婚ということにますますの恐れを持ってしまって、結婚すれば、ひとときは大切にされても、いずれはお互いに「幻滅」することになるだろう、それならかえってこのままの淡いお付き合いでいた方がいい、と心に言い聞かせてしまっているのでした。

 もっともそれは、実はそれほど薫が自分にとってこの上なく大切に思われているということであるはずなのですが、彼女はそれに気づいていないようです。

 「物質的援助の必要から、肉体的関係を強要される屈辱の堪え難さを、大君の薫拒否の理由に加えることができよう」とする説(『人物論』所収「大君―結婚拒否の意味するものー」池田節子著)もありますが、そういう問題は彼女の中では影を潜めているのではないでしょうか。一般的には彼女の言う「幻滅」(原文・見おとす)にその「屈辱」の顕現が含まれていないとは言えないかもしれませんが、ここに至ってなお彼女自身からそのことが一言も語られない以上、読者の過度の読み加えと言うべきではないかと思われます。

 逆にその点を『光る』は「丸谷・この小説の一番へたな読み方は、経済的条件だけで読むことです」と言いますし、『講座』所収「大君の死」(増田繁夫著)も「一般にこの物語の女性たちの中には、こうした場合に功利的に、また現実的に対応する態度をとらず、ひたすら自己の思いこんだ方向へ進んでゆく傾向の人たちが描かれている」と言います。

中の宮を自分の代わりに薫と結婚させようという考えは、そういう「物質的援助」の確保を意図したものではなく、せめてそうして薫を身近に置きたいということであって、そこにはもちろん彼女の密かなエゴイズムではあるにしても、純粋に精神的な欲求だったと考えるべきではないでしょうか。

薫と大君が物語的には驚くべく精神的に造形されていうということは言えそうで、その点ではこれも『光る』の言葉ですが、「大野・ぼくは、『宇治十帖』というのは、…実験小説だと感じるんです」という説になるほどと思わされます。》

 ※ 昨日は、風邪をこじらせて、寝込んでしまいまして、無断で休載しました。続けてお読みの方が
  あれば、ご迷惑をおかけしました。
   どうやら復調しましたので、、なんとか書き続けます。皆様も、お大事に。
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第六段 九月十日、薫と匂宮、宇治へ行く

【現代語訳】

 九月十日のころなので、野山の様子もしきりに思いやられて、時雨めいて暗くなり空のむら雲が恐ろしそうな夕暮に、宮はますます落ち着きなく物思いにお耽りになって、どうしようかと、ご自身では決心をしかねていらっしゃる。そのころと推し量って参上なさる。

「『ふるの山里(姫が袖を濡らしているだろうあの山里)』ではどうしているでしょうか」と、お誘い申し上げなさる。たいへん嬉しいとお思いになって、一緒にとお誘いになるので、例によって同じ御車に相乗りしてお出かけになる。
 分け入りなさるにつれて、自分以上に物思いしているだろう心中を、ますますよくご想像されなさる。道中も、ただこのことのお気の毒さをお話し合いなさる。
 黄昏時のひどく心細いうえに、雨が冷たく降り注いで、秋の終わる気色がもの寂しくて、しっとりと濡れていらっしゃるお二方の芳気は、この世のものに似ず優艷で、連れ立っていらっしゃるのを、山賤連中は、どうしてうろたえぬことがあろうか。
 女房らは、日頃ぶつぶつ言っていたが、そのあとかたもなくにこにことして、ご座所を整えたりなどする。

京に、しかるべき家々に散り散りになっていた娘連中や、姪のような人を、二、三人呼び寄せて仕えさせていた。長年軽蔑申し上げてきた思慮の浅い人びとは、思いもかけぬ客と思って驚いていた。
 姫宮も、よい折柄と嬉しくお思い申し上げなさるが、利口ぶった方が一緒にいらっしゃるのが気づまりでもあり、何となく厄介にも思うが、人柄がゆったりと慎重でいらっしゃるので、

「なるほど、宮はこのようではおいででない」とお見比べなさると、めったにない方だと思い知られる。

 

《都にあって母・中宮の監督が厳しく、思うに任せない匂宮は、三日夜から二週間近く通っていません。晩秋のものわびしい気配の訪れとともにひたすら宇治を思っていますが、自分一人では動きもつかず、物思いにふける日が続いています。

 そんな折、宮のそういう思いを察して、薫が誘いにやって来て、さっそく出かけることになりました。

 実は薫もこの頃は、一人で行くのは少々気兼ねで、間違いなく歓迎される宮を連れて行く方が、口実もでき感謝もされて、行きやすいのでしょう。

 二人を乗せた牛車は、十キロ余りの道をどれほどかけて行くのでしょうか、その間姫たちの話が続きます。

 車の周辺は二人の芳香が満ちて、里人たちは「仏さまがあらわれたか、とでも思うであろう」(『評釈』)といった気配です。

 宮とのご縁ができたことで先の見通しも明るくなったとあって、女房たちの表情も明るく、姫たちにお仕えする態度もよくなり、人も少し増えています。

 「姫宮」は大君のこと、本文で姫と呼ぶのは長女だけなのだそうです。その大君は、妹が寂しく不安な気持ちでいたのが慰むと、「よい折柄と嬉しくお思い申し上げなさる」のです。

もっとも、薫の姿を見ると、また話を蒸し返されぬかと「気づまりでもあり、何となく厄介にも思う」ということはあるのですが、それでも「(匂宮のように)直接行動には出ない、いや、と言えば控えてくれる。こんな男はいない」(『評釈』)と、ありがたく思っています。

いや、それよりも一歩進んで、ここは彼女が薫に心を寄せていることを漏らしたところと見るべきではないでしょうか。》

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第五段 匂宮と中の宮和歌を詠み交して別れる

【現代語訳】

 お供の者たちがひどく咳払いをしてお促し申し上げるので、京にお着きになる時刻がみっともなくないころにと、たいそう気ぜわしそうに、意にかなわず来られない夜もあろうことを、繰り返し繰り返しおっしゃる。
「 中絶えむものならなくに橋姫のかたしく袖や夜半に濡らさむ

(仲が絶えるものでもないのに、あなたは独り敷く袖を夜半に濡らすことだろう)」
 帰りにくく、引き返しては躊躇していらっしゃる。
「 絶えせじのわがたのみにや宇治橋のはるけきなかを待ちわたるべき

(切れないようにという私の願いに、宇治橋の遥かな仲をずっと待ち続けるのでしょ

うか)」
 口には出さないが、何となく悲しいご様子を、たまらなくお思いになるのであった。
 若い女性のお心にしみるにちがいない、世にも稀な朝帰りのお姿を見送って、後に残っている御移り香なども人知れずなにやらせつない気がするのは、洒落たお心だこと。

今朝は、物の見分けもつく時分なので、女房たちが覗いて見申し上げる。
「中納言殿は優しくて、気後れするほど素晴らしいところが添った方だった。気のせいか、もう一段身分が高いので、この方のお姿はまことに格別で」などと、お誉め申し上げる。
 道すがら、気の毒であったご様子をお思い出しになって、引き返したく、体裁悪いほどにお思いになるが、世間の噂を我慢してお帰りあそばすことなので、たやすくお出かけになることはおできになれない。
 お手紙は日毎に、たくさん書いて差し上げなさる。

「いい加減なお気持ちではないのでは」と思いながら、訪れのない日数が続くのを、

「こんなに心配しながらお世話することはしたくないと思っていたが、自分のこと以上につらいことだわ」と、姫宮はお悲しみになるが、ますますこの妹君がお悲しみに沈まれるだろうから、平静を装って、

「せめて自分だけでも、やはりこのような心配を増やすまい」と、ますます強くお思いになる。
 中納言の君も、

「待ち遠しくお思いだろう」と想像して、自分の責任としておいたわしくて、宮をお促し申し上げながら、絶えずご様子を御覧になると、たいそうひどく打ち込んでいらっしゃる様子なので、そうはいってもと、安心なのであった。

 

《夜が明けて、従者たちが帰りを急がせます。この次来る約束もままならない匂宮は、その間の中の宮の悲しみを思いやって、決して心配せぬように繰り返し言い聞かせます。

 悲しみを口にしないままの中の宮がひとしおいとおしく、宮は一度出かけた歩みを返して戻ってきて、後朝の歌を交わしました。

 後に残されて、見送りながら「御移り香なども人知れずなにやらせつない気がする」中の宮を、作者は「洒落たお心だこと(原文・されたる御心かな)」と冷やかします。「男女の間の情にすでに目覚めていることをいう」と『集成』が言い、「なかなかどうして、十分宮のお相手たりうる女君、相手に市街のある女君でいらっしゃるということ」と『評釈』が言います。

 しかし宮は、果たしてなかなか来られません。代わりに手紙を書きます。毎日、しかも日に何度も、と『集成』は言います。

 大君は、おいでがないことを妹のために案じながらも、こんなに手紙が来るなら案外大丈夫なのかもしれないと少し安心しますが、しかし一方で、自分の事ではこのような心配はしたくないと、改めて薫との間を縮めるようなことはすまいと「ますます強くお思いになる」のでした。

 もともとは大君に結婚を迫る薫に、大君が中の宮の方をと薦めるので、薫がその道をなくそうと企てた(直接薫がそういう考えを語ることはありませんでしたが、少なくとも大君はそう考えています・第三章第四段)ことで、結果としてそうなっています。ところが、今、大君の結婚拒否の気持ちは、もう一つの新しい理由が加わってかえって強くなってしまいました。

 そんなこととは知らない薫は、大君同様、やはり宮の足が宇治を遠ざかっていることを、自分が手引きした手前、懸念しながらも、日ごろ宮から切ない思いを聞く話をする機会もあるのでしょう、「そうはいってもと、安心」しています。》

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