源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第三章 薫の物語(一)

第九段 薫、匂宮に宇治の姉妹を語る~その2

【現代語訳】2

「そうですね。実にいろいろと御覧になっているはずの一部さえ、お見せ下さらない。あのあたりは、このようにとても陰気くさい男が独占していてよい人とも思えませんので、ぜひ御覧に入れたいと思いますが、どうしてお訪ねなさることができましょう。気軽な身分の者こそ、浮気がしたければいくらでも相手のいる世の中です。人目につかぬ所ではよくあることのようですよ。それなりに魅力のある、物思わしげな女がひっそりと住んでいる家々が、山里めいた隠れ処などに何かとあるようです。

今お話し申し上げているあたりは、たいそう世間離れした聖ふうで、田舎びているであろうと、長い間ばかにしていまして、耳を止めさえしなかったものです。ほのかな月の光の下で見た器量が実際に見て違っていなかったなら、十分なものでしょう。感じや態度は、それはまたあの程度なのを、理想的な女とは思うべきでしょう」などと申し上げなさる。
 しまいには、本気になってとても憎らしく、並大抵の女に心を移しそうにない人がこのように深く思っているのを、いい加減なことではないだろうと、興味をお持ちになることはこの上なく高まった。
「さらに、またまた、よく様子を探って下さい」と相手をお勧めになって、制約あるご身分の高さを疎ましいまでにいらだたしく思っていらっしゃるので、おもしろくなって、
「いや、つまらないことです。暫くの間も世の中に執着心を持つまいと思っておりますこの身で、ほんの遊びの色恋沙汰も気が引けますが、我ながら抑えかねる気持ちが起こったら、大いに思惑違いのことも起こりましょう」と申し上げなさると、
「いやまあ、大げさなことだ。例によって、物々しい修行者みたいな言葉を、最後まで見てみたいものだ」と言ってお笑いになる。

心の中では、あの老人がちらっと言った話などがますます心を騒がせて、何となく物思いがちなので、心をときめかすことも美しいと聞く人のことも、どれほども心に止まらないのだった。

 

《初めの「そうですね(原文・さかし)」は、匂宮の、私だったらそんなに素晴らしい姫からの手紙なら、あなたに見せるだろうに、という恨み言(前段)に対する返事ですが、なかなか微妙なことばです。皮肉にことさらな肯定的返事で応じた、ということでしょうか。

薫は、匂宮が思い通り羨ましそうに話に乗ってきたので、それをますます煽るように、続けます。まず、あなたは身分がら、訪ねることはできないだろうと、意地悪く言っておいて(これも実はけしかける気持)、片田舎に美しい娘がこっそりといるというロマンを、「あの程度なのを、理想的な女とは思うべきでしょう」と吹き込みます。

匂宮は、すっかり乗せられたようで、「制約あるご身分の高さを疎ましいまでにいらだたしく思って」、「よく様子を探って下さい」と頼んできました。

すると薫は、今度は、いや私は世の中の事からは遠ざかりたいと思って、あまり関心を持っていないので、とするりと逃げる振りをして、じらします。

そう言われると匂宮はもうしようがありませんから、「物々しい修行者みたいな言葉を」と笑うしかありません。あなたのその言葉が本当かどうか、見せて貰うよ…。

友だちとの一時の戯れが過ぎると、薫の胸には、また、あの弁の君の話が蘇って、姫君のことも「心に止まらず」、心が騒ぐのでした。

もっとも、宇治であの弁の君の話を聞いたときは、それほどの反応ではなかったことを思うと、ここはやや唐突な感じがしますが、彼の場合、出家へ向かう気持ち(というより厭世的気分)と大君への関心と、そして出生の疑惑への怖れが、彼の心の中で入り混じって、時々にそれぞれがあふれ出る、といった状態だということなのでしょう。》

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第九段 薫、匂宮に宇治の姉妹を語る~その1

【現代語訳】1

 君は、姫君のお返事がとてもよく整っていておおらかなのを、風情があると御覧になる。

父宮にも「このようにお手紙がありました」などと女房たちが申し上げ御覧に入れると、
「いや、なに。懸想めいてお扱いなさるのも、かえって嫌なことであろう。普通の若い人に似ないご性格のようだから、亡くなった後もなどと一言ほのめかしておいたので、そのような気持ちで、心にかけているのだろう」などとおっしゃったのであった。

ご自身も、さまざまなお見舞い品が山寺にあふれたことなどをおっしゃったところ、参ろうとお思いになって、

「三の宮が、このように奥まった所に住む女が会えば見まさりするのはおもしろいことだろうと、想像するだけでもおっしゃっているのだから、羨ましがらせてお気を揉ませ申そう」とお考えになって、のんびりした夕暮に参上なさった。
 いつものように、いろいろなお話をおとり交わしなさる折に、宇治の宮のことを話し出して、垣間見した早朝の様子などを詳しく申し上げなさると、宮はいちずに興味深くお思いになった。
 やはり予想通りであったと、お顔色を見て、ますますお心が動くように話し続けなさる。
「ところで、その来たお返事は、どうしてお見せ下さらなかったのですか。私だったなら」とお恨みになる。

《薫の所に「姫君」(姉姫)からの「とてもよく整っていておおような」返事が届きました。「嫌みなわざとらしさはなくて、思う事を好ましいあどけなさで書いてある。すなわち、姫君は、薫の文を『懸想だちて(懸想めいて)』はもてなさなかった。…新鮮な愛らしさに満ちて見える。『いいなあ』とますますうれしくなる」(『評釈』)薫でした。

 一方宇治では、姫君が父宮に薫の文を見せたところ、あの微妙な手紙だったのですが、彼は懸想文ではなく、普通の手紙として扱うように言って、「亡くなった後もなどと一言ほのめかしておいた」(語られてはいませんが、二人の出会いから三年の間にそういう話もした、ということのようです)から、そういう意味の手紙なのだと教えます。

宮が山寺にも大変なお届け物があったということをお話になっているころ(『集成』は、「お礼をおっしゃったので」と解釈しています、原文・「のたまへるに」)、薫はまた宇治に行こうとという気になって、ふと、この姫たちのことを三の宮(匂宮)に話して聞かせたら、きっと羨ましがることだろうと思いつきました。

 ずっと以前、「雨夜の品定め」のおりにも、当時の左馬頭が「世間で人に知られず、寂しく荒れたような草深い家に、思いも寄らないいじらしいような女性がひっそり閉じ籠もっているようなのは、この上なく珍しく思われましょう」と言っていて、こういう設定は当時の若者の憧れのロマンだったのでした(帚木の巻第一章第三段)。

そこで出かけるまでに、宮のところにぶらりと行って、世間話のついでのように話し始めました。案の定、宮はおおいに乗ってきます。》

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第八段 薫、宇治へ手紙を書く

【現代語訳】

 老女房の話が気にかかって思い出される。

思っていたよりは、この上なく優れていて立派だったご様子が面影にちらついて、

「やはり、思い離れがたいこの世だ」と、心弱く思い知られる。
 お手紙を差し上げなさる。懸想文めいてではなく、白い色紙で厚ぼったい紙に、筆は念入りに選んで、墨つきも見事にお書きになる。
「ぶしつけなようではないかと、不本意ながら差し控えまして、話し残したことが多いのも辛いことです。一部お話し申し上げておいたように、今からは御簾の前も気安くお許し下さいますように。お山籠もりが済みます日を伺っておきまして、霧に閉ざされた胸のつかえも、晴らしましょう」などと、たいそう生真面目にお書きになっている。左近将監である人をお使いとして、
「あの老女房を訪ねて、手紙を渡すように」とおっしゃる。宿直人が寒そうにしてうろうろしていたのなど、気の毒にお思いやりになって、大きな桧破子のようなものを、たくさん届けさせなさる。
 翌日、あちらのお寺にも差し上げなさる。

「山籠もりの僧たちは、近頃の嵐にはとても心細く辛いだろうに、そうして籠もっていらっしゃる間のお布施を、なさらねばならないだろう」とご想像になって、絹、綿など多かった。
 ご勤行が終わって下山なさる朝だったので、修行者たちに、綿、絹、袈裟、法衣など、総じて一領ずつ、そこにいるすべての大徳たちにお与えになる。
 宿直人は、お脱ぎ捨てになった優艷で立派な狩のお召物の、何ともいえない白い綾織物の、柔らかでいいようもなく匂っているのを、そのまま身に着けて、身は変えることのできないものなので、似つかわしくない袖の香を、会う人ごとに怪しまれたり褒められたりするのが、かえって身の置きどころがないのであった。思いのままに、身を気軽に振る舞うこともきず、とても気持ち悪いまでに人が驚く匂いを無くしたいものだと思うが、大層な御移り香なので、洗い捨てることもできないのが困ったものであるよ。

 

《都に帰った薫の心に、帰り際の思い(第七段1節)そのままに、あの老女房の途中まで聞いた話が気がかりの種として思い出されます。

そして「この上なく優れて」と続くと、弁の君のことを言っているように見えますが、「ご様子」が、敬語付きで、しかも原文は「御けはひども」と複数になっており、後の話を見てもどうやらこれは姫君の事のようです。あの話が気になる一方で、二人の姫君の「この上なく優れていて立派だった」面影が残って、いずれ出家をと決めていた気持もゆらぎ、「『やはり、思い離れがたいこの世だ』と、心弱く思い知られる」のでした。

ともかくその姫たち(と言っても実質は大君宛でしょう)に手紙を書きます。「霧に閉ざされた胸のつかえ(原文・いぶせかりし霧のまよひ)」も読者としては、やはり弁の君の話が途中までだったことの気がかりを思わないわけにはいきませんが、薫としては、宮に会えなかった残念さのように書きながら、姫君たちのつれなさへの嘆きの方が本旨なのでしょう。『評釈』は「これが、若い男の若い女に対する書き方なのだ」と言いますが、なんとも微妙な手紙です。

手紙を渡す相手を、とくに弁の君と指定したのは、「しかるべき取次ぎと見ての指示」(『集成』)であることはもちろんですが、加えて、そういう形で彼女との関係を強めておくことが、弁が話の続きを話し出しやすくなるだろうと考えてのことでもあろうと思われます。

彼の方から直接それを尋ねることは、自分が不安を抱えていることを表してしまうことにもなりそうで、難しいことですから、こうした事前工作が大切になります。

とは言うものの、最初に「老女房の話が気にかかって思い出される。」と言いながら、そのことについてはこの一言だけで、その後言葉の上では全く触れられない、というのは、読者を落ち着かない気持ちにさせます。

そして、話は一転して、「寒そうにしてうろうろしていた」宿直人(前のところでは、特に、寒そうにしていたとは書かれてはいませんでしたが)に、特別に「大きな桧破子のようなもの」(「檜の薄皮で作った折箱。料理を詰める」・『集成』)を届けさせ、宮にも、また宮が籠もっていた寺にもたくさんの届け物をします。

と、ここまで書いて、また宿直人の話に返って、たわいのないエピソードが語られます。さもありなんと思われて愉快な話なのですが、薫の心中の不安や読者の気がかりとの対照が狙われているのでしょうか。》

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第七段 薫、大君と和歌を詠み交して帰京~その2

【現代語訳】2

 硯を召して、あちらに申し上げなさる。
「 橋姫の心をくみて高瀬さす棹のしづくに袖ぞ濡れぬる

(姫君たちのお寂しい心をお察しして、舟人が浅瀬にさす棹の雫で袖を濡らすように、

私は涙で袖を濡らしています)
 物思いに沈んでいらっしゃることでしょう」と書いて、宿直人にお持たせになった。たいそう寒そうに、鳥肌の立つ顔して持って上る。

お返事は、紙の香などがいいかげんな物であるのは恥ずかしいが、早いのだけをこのような場合は取柄としようと思って、
「 さしかへる宇治の川をさ朝夕のしづくや袖を朽たし果つらむ

(棹さして何度も行き来する宇治川の渡し守は、朝夕の雫に濡れてすっかり袖を朽ち

させていることでしょう)
 『身さへ浮きて(涙でその身まで浮かびそうです)』」と、実に美しくお書きになっていらっしゃった。

「申し分なく感じの好い方だ」と、心が惹かれたが、
「お車を牽いて参りました」と供人が騒がしく申し上げるので、宿直人だけを召し寄せて、
「お帰りあそばしたころに、きっと参りましょう」などとおっしゃる。

濡れたお召し物は、皆この人に脱ぎ与えなさって、取りにやったお直衣にお召し替えになった。

 

《帰らなくてはという思いと後ろ髪を引かれるが行きつ戻りつしていた薫ですが、やっと姫たちに別れの歌を送ります。この巻の名の出所となる歌です。『古今集』の恋の歌(689)を踏まえたものとされ、「姫君たちのお寂しい心をお察しして」涙しているといいますが、その涙は、実は「水に浮かんでいるような」(前段)わが身の頼りなさを思ってのものでもあるしょう。

『評釈』は、「この景を、この柴舟を見、姫も『袖ぞぬれ』るであろう」と言います。

姫たちはもちろん薫の心の奥の不安を理解するはずもないのですから、彼女たちは彼女たちで、毎日その柴舟を見て、自分たちの暮らしの心許なさに涙しているということなのでしょうか。

姫君の返歌は、「早いのだけをこのような場合は取柄」とした、ほとんど叙景だけの、当たり障りのないものだと思われます。しかしさすがに早いだけではなく、「実に美しくお書きになって」います。

「引っ込みがちに恥じらいながらも、最小限はたさねばならない応対は、適切にする、しかもその気配には、おかれた境遇から来る心情が滲み出ていじらしい」と『評釈』が絶賛します。薫は「申し分なく感じの好い方だ」と、またしても、心が残るのですが、そこに車が届いて供人がせかします。

それでもあえて次の訪問を約束する言葉だけは宿直人に託して、とうとう出立です。この人は、「何か愚直そうな男」(第二段)とありましたが、気に入られたようです。

カジュアルな狩衣姿で来ていたのでした(第五段)が、「(その濡れた狩衣は)みなこの人に脱ぎ与えて」直衣に着替え、車に乗れば、先ほどまでの揺れる思いは胸に抑えて、すぐにもう有能な官吏の顔に変わります。》

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第七段 薫、大君と和歌を詠み交して帰京~その1

【現代語訳】1

 峰の幾重にも雲は重なり、都から宮を思いやるにも隔てが多く心が傷むが、ましてこの姫君たちのご心中がおいたわしく、

「物思いのかぎりを尽くしていらっしゃることだろう。あのようにとても引っ込みがちでいらっしゃるのも、もっともなことだ」などと思われる。
「 あさぼらけ家路も見えず尋ね来し槇の尾山は霧こめてけり

(夜も明けて行きますが帰る家路も見えません、尋ねて来た槙の尾山は霧が立ち込め

ていますので)
 心細いことですよ」と、引き返して立ち去りがたくしていらっしゃる様子を、都の人で見慣れた人でさえやはりたいそう格別にお思い申し上げているのに、ましてどんなにか珍しく思わないことあろうか。お返事を申し上げにくそうに思っているので、前のようにたいそう慎ましそうにして、
「 雲のゐる峰のかけ路を秋霧のいとど隔つるころにもあるかな

(雲のかかっている山路を秋霧がますます隔てているこの頃です)」
 少し溜息をついていらっしゃる様子が、並々ならず胸を打つ。
 何ほども風情の見えない辺りだが、なるほど心の痛むことが多くある中にも、明るくなって行くといくら何でも直接顔を合わせる感じがして、
「中途半端に途中までしか聞けなかったお話の多くが残ったことについては、もう少しお親しくなってから、恨み言も申し上げさせていただきましょう。一方では、このように世間の人並みにお扱いなさることは、意外にもものがお分かりにならない方なのだと、恨めしくて」と言って、宿直人が準備した西面にいらっしゃって、もの思いに沈まれる。

「網代では人が騒いでいるようだ。けれど、氷魚も寄って来ないのだろうか。景気の悪そうな様子だ」と、お供の人々は見知っていて言う。
「粗末な幾隻もの舟に柴を刈り積んで、それぞれ何ということもない生活に上り下りしている様子で、はかない水の上に浮かんでいるのは、誰も皆考えてみれば同じ無常の世だ。自分は水に浮かんでいるような様でなく、玉の台に落ち着いている身だと、思える世だろうか」と思い続けられずにはいられない。

《薫にとって先ほどの老女房の話はかなり具体的で核心に触れた内容だったと思われるのですが、思いのほか冷静で、いったん立って帰って行きかけたのですが、宮にも会えないままであり、また宮や姫たちの境遇に改めて心を傷めて、霧が深くて帰り道が見えません、と姫たちに言い訳のような歌を詠み掛けて「引き返して立ち去りがたくして」います。

その姿が女房たちにとっては、見たこともないほど素晴らしく見えました。

姫君は返歌を詠みました。それを女房たちから伝えてほしいのですが、薫に見惚れて誰もしないので、やむなく姫が、多分姉君が自分で応じます。

「いとど隔つる」について、『評釈』は父と私たちを隔てる①、『谷崎』はあなたのお帰りになる路を塞ぐ②、『集成』は「薫の思い(「都から宮を思いやる」)と、…同じ心を詠む」と言います。が、①では薫の歌に応じていないような気がしてちょっと唐突で、②では引き止める歌になってまずいと思われ、①が穏当かと思われます。もっともそれでは次の「少し溜息をついていらっしゃる」というのが、どうかという気もしますが、いて下さればよかったのに、という気持と思えば、そう無理でもないという気もします。

その様子がまた薫の心を揺さぶり、風情も何もないところなのですが、もう少しここにいたい気持ちになります。

しかし、日が昇ってきて、宮がいない以上、もう帰らなくてはなりません。「いくら何でも直接顔を合わせる感じがして」は薫の気持ちとしか読めないようで、まさか自分が恥ずかしいのではないでしょうから、すると姫たちの気持ちを慮ったわけで、普通なら顔を見るいい機会だと思いそうなところですが、薫の薫たるゆえんでしょうか。

お供の者が待たされていた西面に下がって来て、薫はなおも「もの思いに」沈みます。姫たちをいたわしく思いながら、一方で、弁の君に途中まで聞いた話を思い返したのかも知れません。

出てくるようで出てこない主人を待って、お供の者達は準備も終わった手持ちぶさたに、珍しい田舎の人の生活を見ながら、世間話をしています。

それに誘われて薫も河面に目をやると、柴舟が上り下りしていました。彼にはそれがいかにも頼りなげに見えて、そのまま出生の秘密を抱えて一つ間違えば世の中に居場所もなくなるやも知れない、土台のおぼつかない自分の人生のような気がしてきます。》

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