源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第二章 朱雀院の物語(二)

第六段 源氏、承諾の意向を示す

【現代語訳】

 この姫宮の御事をこのようにお悩みの様子は、以前からもみなお聞きになっていらっしゃったので、
「お気の毒なご様子ですね。そうはいっても、院の御寿命が残り少ないといって、私とてまた、どれほど後に残り申せると思って、姫の御後見のことをお引き受け申すことができようか。なるほど、年の順を間違わずに、もう暫くの間長生きできるのだったら、大体の関係からいって、どの内親王たちをも他人扱い申すはずもないが、またこのように特別に御心配の旨をお伺いしてしまったような方ならば、特に御後見致そうと思うものの、それさえも無常な世の中の定めなさであることだ」とおっしゃって
「それにもまして、一途に頼みにして戴くような者としてお親しみ申すことは、とてもかえって、引き続いて世を去るような時がおいたわしくて、自分自身にとっても容易ならぬ障りとなるにちがいなかろう。
 中納言などは、年も若く身分も軽々しいようだが、将来性があって、人柄も、最後は朝廷のご後見をするにちがいない見込みのようなので、そちらにお考えなさって、何のおかしいことがあろう。
 しかし、たいそう生真面目で、思う人が妻に収まったようなので、それに御遠慮あそばすのだろうか」などとおっしゃって、ご自身は思ってもいないという様子であるのを、弁は、並々な御決定でないことをこのようにおっしゃるので、お気の毒にも残念にも思って、内々に御決意になった様子など詳しく申し上げると、さすがににっこりなさりながら、
「とても大切にかわいがっていらっしゃる内親王のようなので、ひとえに過去や将来について深くお考えになるのだろうな。迷わず帝に差し上げなさるがよいであろう。れっきとした前からの夫人方がいらっしゃるということは、つまらぬことだ。それにこだわるべきことではない。必ず、そうだからといって、後の人が疎略にされるものでない。
 故院の御時に、弘徽殿大后が東宮の最初の女御として威勢をふるっていらっしゃったが、はるか後に入内なさった入道宮に、暫くの間は圧倒されなさったのだ。
 この内親王の御母女御は、あの宮の御姉妹でいらっしゃったはずだ。器量も、その次にはおきれいな方だと言われておられた方であったから、どちらにしても、この姫宮は並大抵の方ではいらっしゃるまいが」などと、興味深くはお思い申し上げていらっしゃるのであろう。

 

《さて、長々と前振りを語ってきて、いよいよ源氏ご本人の登場となりました。

弁の話を聞いた源氏の返事は微妙です。

初めは、自分は年が院とわずか(三歳)しか違わないから、引き受けても長くは保証できない、ひょっとして自分が先に死ぬかも知れない(「それさえも無常な世の中の定めなさ」)と、一応断った格好です。

次いで、自分も院と相前後して死ぬだろうから、その時の姫宮のお嘆きが心苦しい、とさらに断り、代わりの候補者として中納言(夕霧)を挙げますが、しかし、どうもあまり本気ではなさそうです。

『評釈』が、「玉鬘の巻巻での源氏なら、ここでも兵部卿の宮を推薦しそうなものである。下心あってのことであろう」と言いますが、その憶測ももっともです。宮の足らないところは、源氏に比べればちょっと線が細い、ということだけのようなのですから、しいて勧めれば、十分考慮の範囲であったのではないでしょうか。

一応断られた格好なので、弁は、院のお考えになった事情などを話して、もう一押しします。

それを聞いての、「にっこりなさりながら」というのが、とんでもないというのではなくて、なぜか何となく嬉しそうな感じに読めて気になります。

それでも彼は次の候補に帝を挙げます。初めの方は筋の通った話ですが、終わりに「この姫宮は並大抵の方ではいらっしゃるまいが」と、一言添えます。これは、一応は、だから入内に不都合はあるまい、という意味で言った形なのでしょうが、そこは作者が「興味深くはお思い申し上げていらっしゃるのであろう」と言いますから、断りながら、微妙に関心をちらつかせたことになります。

結局は、ちょうど夕霧が、あれでも自分の所に話があるのではないか、と腰を浮かせているのと同じように見えて、親子揃って、と思うと滑稽です。

ただ、ここの源氏の態度と左中弁の受け取り方の解釈はいろいろで、この渋谷源氏がこの段のタイトルを「源氏、承諾の意向を示す」としており、『評釈』も「弁は喜んで帰ってゆく」と鑑賞しているのに対して、『構想と鑑賞』は「左中弁が源氏不承諾の旨を(院に)伝えた」と言い、『光る』も「丸谷・光源氏は、乳母の兄の左中弁から朱雀院の内意を伝えられて固辞しました」と言っています。しかし、少なくとも「固辞」というほど、強い意志ではなさそうです。》

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第五段 婿候補者たちの動静

【現代語訳】

 太政大臣も、
「この右衛門督が、今まで独身でいて、内親王でなければ妻としないと思っているが、このような御選考が問題になっているという機会に、そのようにお願い申し上げて、召し寄せられたならば、どんなにか自分にとっても名誉なことで、嬉しいだろう」とお思いになりおっしゃりもなさって、尚侍の君には、その姉の北の方を通じて、お伝え申し上げるのであった。あらん限りの言葉を尽くして奏上させて、御内意をお伺いになる。
 兵部卿宮は、左大将の北の方を貰い受け損ねなさって、お聞きになっているだろうところもあって、いい加減な相手ではと、選り好みしていらっしゃったが、どうしてお心が動かないことがあろうか。この上なくやきもきしていらっしゃる。
 藤大納言は、長年院の別当として親しくお仕え続けてきたが、御入山あそばして後、頼る所もなくきっと心細いだろうから、この宮の御後見を口実にして、お心にかけていただくよう、御内意を熱心に伺っていらっしゃるのであろう。

 権中納言も、このような事柄をお聞きになって、
「人伝でもなく直接に、あれほど意中をお漏らしあそばした御様子を拝見したのだから、自然と何かの機会を待って、自分の意向をほのめかし、お耳にお入れすることがあったら、まさか全く問題にならないということはあるまい」と、心をときめかしたにちがいなかろうが、
「女君が、今は安心して頼りにしていらっしゃるのを、長年、辛い仕打ちを口実に浮気しようと思えば出来た時でさえ、他の女への心変わりもなく過ごしてきたのに、無分別にも、今になって昔に戻って、急に心配をおかけできようか。並々ならぬ高貴なお方に関係したならば、どのようなことも思うようにならず、左右に気を使っては、自分も苦しいことだろう」などと、本来好色でない性格なので、心を抑えながら外には出さないが、やはり他の人に決定してしまうのも、どんなものかと気になって、聞き耳を立てるのであった。

 東宮におかれても、このような事をお耳にあそばして、
「差し当たっての現在のことよりも、後の世の例となるべきことですから、よくよくお考えあそばさなければならないことです。人柄が悪くないといっても、臣下は臣下ですので、やはり、そのようにお考えになられるならば、あの六条院にこそ親代わりとしてお譲り申し上げなさるのがよいでしょう」と、特別のお手紙というのではないが、御内意があったのを、お待ち受けお聞きあそばしても、
「なるほど、その通りだ。たいそうよく考えておっしゃったことだ」と、ますますその気におなりになって、まずはあの弁を使者として、とりあえず事情をお伝え申し上げさせあそばすのであった。

 

《朱雀院の人物評に呼応して、こちらはその当人たちの思惑が語られます。

右衛門督・柏木については、父の言葉を借りて、「内親王でなければ妻としないと思って」いたと明かされます。そう言えば、それだからでしょうか、彼の玉鬘へのアタックは、弟たちの思いの割にはそれほど熱心ではなかったという印象があります。こういう望みも、太政大臣の嫡男という立場を考えれば、高すぎる望みではないでしょう。夕霧がいなければ、間違いなくトップの人で、その彼はすでに結婚しているのですから。父・太政大臣も大乗り気で、奥方が朧月夜尚侍の姉という手蔓で、院に強力にアタックさせます。

また、兵部卿宮は、玉鬘の時に第一候補だったにもかかわらず、一歩及ばず外れてしまったことをかなり気にしているようで、玉鬘が自分の結婚に関心を寄せて「お聞きになっているだろう」と思うと、見返すことになるような相手を探していることもあって、心を動かしています。

藤大納言はかなり打算的で、院が山には入られて立場が心細いらしく、姫宮を世話することで院の庇護を受けようと考えています。

そして夕霧までが、そういう人々の様子を耳にすると、院があのように直におっしゃったことを思いだし、自分だってあのお話だけのままにはならないかもしれない、もし声が掛かったらどうしようと、半ば期待気味です。しかしその一方で、やっと結婚したばかりの妻を裏切ることはできないような気もして、腰が定まらず、遠くから首を伸ばして様子を覗っている、といった案配で、まことに真面目な彼らしい姿です。

と、さまざまな人々の思惑が漂っている中で、とうとう東宮(女三の宮と腹違いの御子・明石の姫君の夫君)が、臣下では駄目、「親代わり」として源氏に譲れば内親王としての面目が立つというお考えを院に伝えられました。この御子は、年を数えると、女三の宮と同い年か一歳年下(『集成』年立・ということは、十三歳前後)ということのようで、この助言はちょっと不似合いな気もしますが、まあ、お立場が人を育てたのだろうと思うことにします。

息子に考えを強く支持されて、院のお気持は決ったようで、早速使いが源氏の許に飛び立ったのでした。》

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第四段 朱雀院、婿候補者を批評

【現代語訳】
「もう少し分別がおできになるまでそっとしておこうと、長年辛抱してきたが、深い出家の素懐も遂げずになってしまいそうな気がするので、気が急かされて…。
 あの六条の大殿は、いかにもそうではあるものの万事心得ていて、安心な点ではこの上ないのだから、あちこちに大勢いらっしゃるご夫人たちを考慮する必要もあるまい。何といっても、当人の心次第なのだ。

ゆったりと落ち着いていて、広く世の模範とも言うべき、信頼できる点では並ぶ者がなくおいでになる方だ。この人以外で適当な人は誰がいようか。
 兵部卿宮は、人柄は好ましい。同じ兄弟であって、他人扱いして軽んじるべきではないが、あまりにひどくなよなよと風流めいていて、重々しいところが足りなくて、少し軽薄な感じが過ぎているのではないか。やはり、そのような人はどうも頼りなさそうな気がする。
 また、大納言の朝臣が家司を望んでいるというのは、そうした点では、忠実に勤めるにちがいないだろうが、それでもどんなものか。その程度の世間一般の身分の者では、やはりとんでもない不釣合であろう。
 昔もこのような婿選びでは、万事につけ人より格別優れた評判のある者に、落ち着いたものだ。ただ一途に、他の女には目もくれず大事にしてくれる点だけを、立派なことだと考えるのは、実に物足りなく残念なことだ。
 右衛門督が内々やきもきしていると、尚侍が話しておられたが、その人だけは、位などがもう少し一人前になったら、何の問題もないと思いつくところだが、まだ年齢が若くて、あまりに軽い地位だ。高貴な女性をという願いが強くて、独身で過ごしながら、たいそう沈着に理想を高く持している態度が人に抜きんでていて、漢学なども申し分なく備わり、ついには世の重鎮となるはずの人なので将来を期待できるが、やはり婿にと決めてしまうには、不十分ではないか」と、いろいろとお考え悩んでいらっしゃった。
 これほどにはお考えでない姉宮たちには、一向にお心をお悩ませ申し上げる人もいない。不思議と、内々に仰せになる内証事が自然と広がって、気を揉む人々が多いのであった。


《院の思案はまだ続きます。

やっぱり源氏が一番格好の相手だと思えて、「万事心得ていて」くれるだろうから、「大勢いらっしゃるご夫人たちを考慮する必要もあるまい」、というところに、とりあえず行き着きます。

そして結局は「当人(女三の宮)の心次第なのだ」ということもある、ということに行き着くのですが、その当人が期待できそうになく、「もう少し分別がおできになるまでそっとしておこう」と思わねばならなかったような方だからこそ、心配が始まったはずで、どうも堂々巡りの感があります。もっともこういう話は、えてしてそういうふうになりがちだとも言えますが。

以下、候補者の人物評です。

兵部卿宮の評は、あの蛍兵部卿で、なるほど、たしかにそういう感じの人だったという気がします。言わば狂言回しの域を出ない、院にすれば物足りないところがあるのも分かります。

大納言の朝臣、これは「系図不詳」(『集成』)の人物ですが、次段で「藤大納言は、長年院の別当として、親しくお仕え続けてきた」と言われます。どこかの段階で所望の意をつたえたのでしょうが、院には、実務者としての能力しか認めて貰っていないようです。

右衛門督は太政大臣の嫡男(後に柏木の巻で主人公とされることから、後世、柏木と呼ばれる人)ですが、叔母に当たる朧月夜尚侍が勧めたようで、一般には一番適任のように思われますし、院も、「少し一人前になったら、何の不釣合なことがあろう」、「最後は世の重鎮となるはずの人」とまではお思いなのですが、「まだ年齢が若くて、あまりに軽い地位」で、不足だとお考えです。もっとも「年齢が若」いといっても、ほぼ十歳年長ですから、普通にはお似合いといってもいいはずなのですが。

姫宮の三人のご姉妹は、自身がしっかりしていたり、後見がそうだったりして何の心配もない方々ばかりなのですが、候補者の話がなく、この姫にばかり、こうして曲がりなりにも立候補者がたくさんあるというのも、皮肉なことですが、こちらはこちらで、皆その「曲がりなりにも」であるところが問題という、厄介な話です。

『構想と鑑賞』は、「院の考え方に全然手落ちがないとはいえないが、それと共にだいたいにおいては条理をつくした考え方であることも、認められる」と言いますが、「あまりに源氏に執しすぎて」いる(同)という感を免れないように思われます。しかし、人に無意識の固執ということはあるもので、物語は、お伽の国の神々の物語ではなく、人間の物語になってきたのだと考えるのがいいのではないでしょうか。日常のことになると、院もまた、一介の父親に過ぎないといったところです。》

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第三段 朱雀院、内親王の結婚を苦慮

【現代語訳】
「そのように考えるから、皇女たちが結婚している様子は、見苦しく軽薄なようでもあり、また高貴な身分といっても、女は男との結婚によって、悔やまれることも腹の立つ思いも、自然と生じるもののようだと、一方では心を傷め悩んでいるのだが、また一方で、しかるべき後見の人に先立たれて、頼みとする人々に別れた後、自分の心を強く持って世の中を生きて行くことも、昔は人の心も穏やかで、世間から許されない身分違いのことは考えもしないことであったろうが、今の世では好色で淫らなことも縁者を頼って聞こえてくるようだ。昨日まで高貴な親の家で大切にされて育てられていた姫が、今日は平凡な身分の低い好色者たちに浮名を立てられ、だまされて、亡き親の面目をつぶし、死後の名を辱めるような例が多く聞こえるのも、詮じつめれば、どちらも同じ事だ。

それぞれの身分につけて、宿世などということは、知りがたいことなので、万事が不安なのだ。

総じて、良くも悪くも、しかるべき人が指図しておいたようにして世の中を過ごして行くのは、それぞれの宿世であって、晩年に衰えることがあっても、自分自身の間違いにはならず、後になってこの上ない幸福がきて、見苦しからぬことになった時には、それでもかまわなかったと見えるが、やはり、その当座いきなり耳にした時には、親にも内緒だし、しかるべき保護者も許さないのに、自分勝手の秘め事をしでかしたのは、女の身の上にはこれ以上ない欠点だと思われることだ。平凡な臣下の者同士でさえ、軽薄で良くないことなのだ。

本人の意志と無関係に事が運ばれて良いはずのものでもないが、自分の意に反して結婚して、運命の程が決められるのは、たいそう軽率で、日常の心構えや態度が想像されることだが、妙に頼りない性質ではないかと見えるようなご様子だから、お前たちの考えのままに、お取り計らい申し上げるな。そのようなことが世間に漏れ出るようなことは、まことに情けないことだ」などと、お残し申されて御出家あそばされる後のことを、不安にお思い申し上げていらっしゃるので、ますます厄介なことと思い合っていた。

 

《乳母の話を聞いて、院は改めて内親王の生涯のありようを思い巡らします。

院から見ると、一般的には結婚した皇女の姿は、「見苦しく軽薄なようで」基本的には好ましくなく見えているようです。

だから本当はこの女三の宮も結婚さえないで置きたいのだが、しかし一方で、独り身で過ごして、後見する人に先立たれたりすると、これもまた、昔と違って、「人の心も穏やかで」なくなった当今では、深窓に育ったお嬢様では、世渡りなどできるはずもなく、結局、好色なスキャンダルやゴシップで笑いものになるという話もよくあることで、心配だと言います。

結局、結婚してもしなくても、心配は同じで、人生というものは分からないものだ。だから、信頼できる人のいうことに従っておけば、少なくとも自分の失敗ということにはならず、後ろ指を指されることも減るだろう。

その後、「後になって」以下が、分かりにくいのですが、倒置法で、「その当座…」以下から読むといいようです。「しかるべき保護者も許さないのに、自分勝手の秘め事を」というのは恋の末の自分の意志での結婚のことで、そこから「後になって」に後返りします。つまり自分勝手に恋愛結婚をしたりすると、後になって幸せになれば、それはそれでいいようなものだが、少なくとも結婚の当座はいかにも軽薄に見えて、「女の身の上にはこれ以上ない欠点」となって残ることになる、それは下々の者でもそうだから、まして姫宮にそういうことがあってはならない。

次は、姫の知らない間に女房などが手引きをする場合のことを言っておられるようです。本来そういうことはあってはならないのだが、仮にそういうことがあって、その男によって「運命の程が決められる」のは、その姫の「日常の心構えや態度」が至らないのであって、初めに相手が自分の気に染まないのであれば、拒否するだけの器量を持っていればいいことなのだが、さて、我が姫宮を思ってみると、どうも大変頼りなく思われます。院は、思わず、女房たちに、お前たちも姫につまらぬことを吹き込まないように、と、こちらにとばっちりが行きました。

こうした姫君の結婚は、しばしばおそば付きの女房の手引きから始まるので、この姫にそんなことがあってはならない、姫の相手は私が決めなくてはならないと、院は宣言をされた格好です。

娘を持つ父親の悩みの典型で、いちいちごもっともという気がしますが、こういう難しい網の目を縫って、安心できる婿殿を捜すのは至難のこと、心配する女房たちは、溜息をつくしかないといったところです。》

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第二段 乳母、左中弁の意見を朱雀院に言上

【現代語訳】
 乳母がまた話のついでに、
「これこれの事を、あの者にそれとなく話しましたところ、『あちらの院では、きっとご承諾申し上げなさるでしょう。長年のご宿願が叶うとお思いになるはずのことですし、こちら様のお許しが本当にあるようでしたら、お伝え申し上げましょう』と申しておりましたが、どのようなものでございましょうか。
 それぞれ身分に応じて、夫人それぞれの違いをお考えになりながら、またとないお心づかいでいらっしゃるようですが、普通の身分の者でも自分以外に寵愛を受ける女が横にいることは誰でも不満に思うことでございますのに、心外なこともございましょうか。

ご後見を希望なさる方は、大勢いらっしゃるようです。よくお考えあそばしてお決めになるのがようございましょう。

この上ない身分の人と申しても、今の世の中では、みなわだかまりなく立派に処理して、世の中を考え通りにお過ごしになられる方もいらっしゃるようですが、姫宮は、驚くほど何もご存じなく、たいそう頼りなくお見えでいらっしゃるので、お側の女房たちは、お仕え申すにも限界がございましょう。
 大筋のご主人のご意向にお従い申して、賢明な下々の者もそのお考え通りに従うというふうであるのが、心丈夫なことでしょう。これといったご後見がいらっしゃらないのは、やはり心細いことでございましょう」と申し上げる。

 

《乳母が、兄の話を受けて、院に報告します。

 やはりここでも、源氏が高貴な女性を迎えることが「長年のご宿願(原文・年ごろの本意)」であることが、まっ先に告げられます。

そして、実際に姫宮が源氏に降嫁されるとなった場合、乳母の考える最大の問題は、紫の上の存在です。源氏にとっての彼女の存在の大きさは天下周知のことですから、降嫁された場合、姫宮にとって「自分以外に寵愛を受ける女が横にいる」という可能性は決して低くはないので、「心外なこと」もあるだろうということは、院や姫宮にご承知願わなくてはなりません。

「ご後見を希望なさる方は、大勢いらっしゃる」というのは、読者は知りませんが、常識的には理解できます。それらの人には、紫の上のような人はついていないでしょうから、そこでは間違いなく筆頭夫人、唯一の夫人でいらっしゃることができますから、そのことを考えれば、そちらの中から選ばれるのも一案、と院に下駄を預けます。

前段にあった「内親王たちは、独身でいらっしゃるのが通例」ということを念頭に、「この上ない身分の人」、つまり内親王のような方でも、「世の中を考え通りにお過ごしになられる方もいらっしゃる」のですが、何と言っても、姫宮は、並外れて幼くていらっしゃるので、そういうことを期待するのは心配があり、お側に少々優れた侍女が付いていても、手が届きかねることがありそうです、つきましては、立派にご後見できる殿方を、と、これはやはりご結婚いただくのが上策、それも源氏を、と暗に言っているのと等しく聞こえます。》

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