源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第五章 髭黒大将家と内大臣家の物語

第二段 近江の君、活発に振る舞う

【現代語訳】

 そうそう、あの内大臣のご息女で尚侍を望んでいた女君も、ああした類の人の癖として、色気まで加わってそわそわし出して、持て余していらっしゃる。女御も、「今に、軽率なことを、この君はきっとしでかすだろう」と、何かにつけ、はらはらしていらっしゃるが、大臣が、「今後は、人前に出てはいけません」と戒めておっしゃるのさえ聞き入れず、人中に出て仕えていらっしゃる。
 どういう時であったろうか、殿上人が大勢、立派な方々ばかりが、この女御の御殿に参上して、いろいろな楽器を奏してくつろいだ感じの拍子を打って遊んでいる。秋の夕方のどことなく風情のあるところに、宰相中将もお寄りになって、いつもと違ってふざけて冗談をおっしゃるのを、女房たちは珍しく思って、
「やはり、どの人よりも格別だわ」と誉めると、この近江の君が女房たちの中を押し分けて出ていらっしゃる。
「あら、困ったこと。これは大変」と引き止めるが、たいそう意地悪そうに睨んで出張っているので、困って、
「軽率なことを、おっしゃらないかしら」と、お互いにつつき合っていると、この世にも珍しい真面目な方を、
「この人よ、この人よ」と誉めて、小声で騷ぎ立てる声が、まことにはっきり聞こえる。女房たちは、とても困ったと思うが、声はとてもはっきりした調子で、
「 沖つ舟よるべ波路にただよはば棹さし寄らむ泊まり教へよ

(沖の舟さん。寄る所がなくて波に漂っているなら、私が棹さして近づいて行きます

から、行く場所を教えてください)
 棚なし小舟みたいに、いつまでも一人の方ばかり思い続けていらっしゃるのね。あら、ごめんなさい」と言うので、たいそう不審に思って、
「こちらの邸には、このようなぶしつけな人のことは、聞かないのに」と思いめぐらすと、

「あの噂の姫君であったのか」と、おもしろく思って、
「 よるべなみ風の騒がす舟人も思はぬかたに磯づたひせず

(寄るべもないので風がもて遊ぶ舟人でも、思ってもいない所には磯伝いしません)」
 とおっしゃったので、引っ込みがつかなかったであろう、とか。

 

《玉鬘が、人々からたくさんの篤い思いを寄せられながら周囲の思惑に翻弄され、波乱に振り回されて、その周辺に「妙に、男にも女にも物思いをさせ」(前節)、それでも今曲がりなりにもどうやら落ち着いた暮らしを得たころ、かの近江の君は、内大臣邸で、相変わらず溌剌とした厄介者を演じているのでした。

 ぼつぼ年頃となってきて、手元に預かって面倒を見ている(常夏の巻第二章)女御も不安を感じ始め、父上は心配で女御へのお勤めも控えるように言うのですが、言うことを聞くものではありませんでした。

折から、たまたま内大臣邸の弘徽殿の女御の所でくつろいだ音楽の集いがなされているところに夕霧が遊びに来て、この人には珍しく女房たちをからかい、談笑している時に、この人は何と言っても一応は姫君扱いですから、さっそく「女房たちの中を押し分けて出ていらっしゃる」と、人々の不安を知らぬげに、夕霧に向かって、雲居の雁への彼の思いをからかうように、歌を詠み掛けるのでした。周囲は、源氏の御曹司という大事な客であり、かつ、当代一の貴公子に対して、当人が一番つらく思っていることをずけずけと話しかけるとは、何ということを、と目を覆いたい気分だったことでしょう。

夕霧も驚きます。女御の周辺の女房にこんな人がいるとは、と「たいそう不審に思って」、思いめぐらし、さてはあの噂の姫君かと思い当たったのでした。

返歌は至って明快に、いえいえ、いくら行くところがなくても、噂のあなたは結構です、というものでした。

こうして、源氏中年の、いささかもたついた感のある玉鬘の物語は、口直し(いや、ほんのお口汚し?)のギャグのようなエピソードをもって幕を閉じて、以下は源氏の栄達の最終ラウンドに入ることになります。》

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第一段 玉鬘、男子を出産

【現代語訳】
 あのもとの北の方は、月日の経つにしたがって、あまりな仕打ちだと物思いに沈んで、ますます気が変になっていらっしゃる。大将殿の普段のお世話は、万事に細かくご配慮なさっていて、男の子たちを変わらずかわいがっていらっしゃるので、北の方はすっかり縁を切っておしまいにはなれず、生活上の頼りは以前と同様でいらっしゃるのであった。
 大将は姫君をたまらなく恋しくお思い申し上げなさるが、全然お会わせ申し上げなさらない。子供心にも、この父君を誰もがみな許すことなくお恨み申し上げて、ますます遠ざけることばかりが増えて行くので、心細く悲しいが、男の子たちは、いつも一緒に行き来して、尚侍の君のご様子などを自然と何かにつけて話し出して、
「私たちをも、かわいがってやさしくして下さいます。毎日おもしろいことをして暮らしていらっしゃいます」などと言うと、羨ましくなって、このようにして自由に振る舞える男の身に生まれてこなかったことをお嘆きになる。妙に、男にも女にも物思いをさせる尚侍の君でいらっしゃるのであった。

 その年の十一月に、たいそうかわいい赤子までお生みになったので、大将も、申し分なくめでたいと、大切にお世話なさることこの上ない。その時の様子は言わなくても想像できることであろう。父大臣も、自然に願っていた通りのご運命だとお思いになる。
 特別に大切にお世話なさっているお子様たちにも、ご器量などは劣っていらっしゃらない。頭中将も、この尚侍の君を、たいそう仲の好い姉弟としてお付き合い申し上げていらっしゃるものの、やはり諦めきれない様子を時々は見せながら、入内して、その甲斐あってのご出産であったらよかったのにと、この若君のかわいらしさにつけても、
「今まで皇子たちがいらっしゃらないお嘆きを拝見しているので、どんなに名誉なことであろう」と、あまりに身勝手なことを思っておっしゃる。
 公務はしかるべく取り仕切っているが、参内なさることはこのままこうして終わってしまいそうである。それもやむをえないことである。

 

《源氏の玉鬘を巡る物語は終わりました。ここはその後日談です。

 大将の北の方は、思うことが多く病状は芳しくありません。大将の息子たちは、大将の家に住んでいるのですが、しばしばそういう母を訪ねて式部卿宮邸にやって来ているようで、北の方はこの子たちかわいさに縁を切らずにいるので、したがって大将は暮らし向きの援助も以前のまま続けています。

 ただ姫君・真木柱だけは、「この父君を(宮邸の)誰もがみな許すことなくお恨み申し上げて」父親に会わせて貰えず嘆いていますし、大将も会えないのをただ一つの悲しみとしているのでした。

 その冬、玉鬘に大将の子が生まれました。大将の生活の地盤は着々と固まっていきます。また、源氏にとっては面白くないことでしょうが、実の舅である内大臣にとっては全く喜ばしいことで、玉鬘への親しみさも次第に増していくようです。嫡男・頭中将などは、まだ姉弟でなければなどと一方では思いながら、また、もしこの子が尚侍として帝の御子だったら、と欲張ったことを考えるほど、身近な気持になっているのでした。

 しかも「たいそうかわいい赤子」でしたから、玉鬘も、大将のことはともかくも、きっとその子に心を奪われて、これからはもう以前のようには源氏を恋しがったりしなくなっていくでしょう。そしてとうとう尚侍の仕事は在宅勤務となり、出仕することさえもなくなりそうなのです。

これで玉鬘十帖と呼ばれる話が終わります。この後玉鬘は主役の座を降りて、ときおり姿を見せながら、およそ二十年後の竹河の巻で再び大きな役を受け持つまで、おおむねは物語の陰に隠れることになります。

そうそう、源氏邸の玉鬘と対照的な、内大臣邸の近江の君の話が語られなければ不公平でした。》

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