源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第一章 玉鬘の物語

第五段 源氏、玉鬘への恋慕の情を自制す

 

【現代語訳】
 姫君は、このような源氏の矛盾した振る舞いを、
「自分自身の不運なのだ。親などに娘と認めていただき、人並みに大切にされた状態で、このようなご寵愛をいただくのなら、決して不似合いということはないだろうに。普通ではない境遇は、しまいには世の語り草となるのではないかしら」と、寝ても起きてもお悩みになる。

とは言え、「まったく感心しない扱いにはしてしまうまい」と、大臣はお思いになるのだった。

それでも、そのような困ったご性癖があるので、中宮などにも、決してとてもきちんとお思い申し上げていられるわけでもなく、何かにつけては穏やかならぬ申しようで気を引いてみたりなどなさるが、高貴なご身分が及びもつかない垣の高さなので、身を入れてお口説き申すことはなさらないが、この姫君は、お人柄も親しみやすく今風なので、つい気持ちが抑えがたくて、折ある毎に、人が拝見したらきっと疑いを持たれるにちがいないお振る舞いなどはあることはあるが、他人が真似のできないくらいよく思い返し思い返しては、危なっかしい仲なのであった。

 

《冒頭の「このような源氏の矛盾した振る舞い」は、原文では「さすがなる御けしき」とあります。「さすが」については、現代では賞讃の意味が一般で、ちょっと分かりにくい使い方です。

『辞典』が、「前にあった様子や事情から矛盾する事態が現れた場合に使う語。…よい事態が現れた場合にも使うところから…賞讃にも使うようになった」と説明していますから、ここでは、源氏が親という立場をとっていながら、恋心(色心と言うべきでしょうか)を見せて迫ったり、姫と宮との間で出歯亀もどきの企てをしたりと、玉鬘として、どう対処して好いか迷わされるような事を言っているわけです。

彼女は、そういう源氏の態度にすっかり参ってしまいます。それにしても、内大臣に娘として認めて貰った上で、こういう扱いを受けるなら、「決して不似合いということはないだろう」というのは、なかなかの自信です。こういうところが「親しみやすく今風(原文・気近く今めきたる)」なところなのでしょう。

源氏もまた、いろいろの思いがあって、恋心が抑えられない気がする一方で、「まったく感心しない扱いにはしてしまうまい」と、かろうじて一線を守っているといった案配です。「他人が真似のできないくらいよく思い返し」が滑稽で、こんなところでまで源氏を讃えている作者なのです。しかし多分本当にそういう感覚なのでしょう。

ポール・ブールジェの小説に「真昼の悪魔」というのがあって、中年の精神的危機を描いていると読んだことがあるような気がしますが、源氏にとって危機というわけではありませんが、心の動きとしてはそれに当たるのでしょうか。

『評釈』は、女性に対するこういう振る舞いは、「上流貴族の当然とるべき態度でもあった。美しい姫君を、周囲の男がほうっておいては、その姫君にたして失礼であったのだ」と言いますが、ここでの源氏の振る舞いは、どう読んでもエチケットと自覚してのそれと読める描き方ではないように思います。》

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第四段 兵部卿宮、玉鬘にますます執心す

【現代語訳】
 宮は、姫のいらっしゃる所をあの辺だと見当をおつけになるが、割に近い感じがするので、胸が高鳴る思いがなさって、なんとも言えないほど素晴らしい薄物の帷子の隙間からお覗きになると、柱一間ほど隔てた見通しの所に、このように思いがけない光がほのめくのを、美しいと御覧になる。
 間もなく見えないように取り隠した。けれどもほのかな光は、風流な恋のきっかけにもなりそうに思われる。ほのかにではあるが、すらりとした身を横になっていらっしゃる姿が美しかったのを、心残りにお思いになって、源氏のお考えの通りに、この趣向はお心に深くとまったのであった。
「 鳴く声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消つには消ゆるものかは

(鳴く声も聞こえない螢の火でさえ、人が消そうとして消えるものでしょうか)
 お分かりいただけたでしょうか」と申し上げなさる。

このような場合のお返事を、思案し過ぎるのも素直でないので、早いだけを取柄に。
「 声はせで身をのみこがす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ

(声には出さずひたすら身を焦がしている螢の方が、口に出すよりもっと深い思いで

いるでしょう)」
などと、さりげなくお答え申して、ご自身はお入りになってしまったので、とても疎々しくおあしらいなさるつらさを、ひどくお恨み申し上げなさる。
 好色がましいようなので、そのまま夜をお明かしにならず、五月雨の「軒の雫の(絶えることのない)」涙に濡れながら、まだ暗いうちにお出になった。ほととぎすなどもきっと鳴いたことであろう。わずらわしいので確かめることもできなかった。
「ご様子などの優美さは、とてもよく大臣の君にお似申していらっしゃる」と、女房たちもお褒め申し上げる。昨夜、すっかり母親のようにお世話やきなさったご様子を、内情は知らないで、「しみじみとありがたい」と女房一同は言う。

 

《源氏が、自分の演出の上々の効果を確信して多分ほくそ笑みながら、帰っていったあと、宮は改めて帷子の一重が上げられた几帳の隙間から母屋の中をのぞき込みます。

中には蛍の光が明滅して、ぼんやりをあたりを照らし出しています。あれが姫ではないかと宮は見当を付けますが、それは意外に近いところなのでした。

実は、前の第二段で宮は「御几帳だけを間に隔てとした近い場所」に敷物が用意されていて、そこに坐ったとありましたが、それを『評釈』は「今日は、ばかに近い。ほとんど十メートル程度しか離れていない」と言っていました。二人の配置は、ここでもそのままです。現代では随分な距離ですが、当時はそれを近いというのでしょう。

 そこに「すらりとした身を横になっていらっしゃる姿」があったのでした。あれが姫だと宮は確信します。それはほんの一瞬であっただけによけいに宮の心に残ります。まさに源氏の思惑どおりです。

宮は、すぐに歌を詠み掛けました。しかし姫の返事はずいぶん冷たいもので、しかも侍女がその歌を伝えている間にも、本人はまた奧に引っ込んでしまいました。

やるせない宮ですが、そこは名うての風流人ですから、この場は潔く引き下がることにしました。

「ほととぎすなどもきっと…」については、『評釈』が、「当時の常識として、五月雨、『ぬれぬれ夜深く出でたまひぬ』と言えば、時鳥を思い、…また時鳥が出てくれば必ず歌を詠むのが物語のおきまりであり、約束である。したがって、…『このような場面なのですから宮と姫君の間にも…歌の贈答があったはずです』と言う」と言います。そして「わずらわしいので…」は、その歌を省略する、という草子地ということになります。

形よく帰っていった宮を、女房たちが褒めそやし、あわせて源氏の振る舞いを姫にとってのありがたいことと言い聞かせるのでした。

それを聞きながら、姫はますます居心地の悪さを感じたことでしょう。》

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第三段 源氏、宮に蛍を放って玉鬘の姿を見せる

【現代語訳】
 夕闇のころが過ぎて、はっきりしない空模様も曇りがちで、物思わしげな宮のご様子も、とても優美である。内側からほのかに吹いてくる追い風も、さらに優れた殿のお香の匂いが加わっているので、とても深く薫り満ちて、予想なさっていた以上に素晴らしいご様子に、お心を惹かれなさるのだった。
 お口に出して思っている心の中を仰せ続けなさるお言葉は、落ち着いていて、一途な好き心からではなく、とても態度が格別である。大臣は、とても素晴らしいと、ほのかに聞いていらっしゃる。
 姫君は、東面の部屋に引っ込んでお寝みになっていらっしゃったのを、宰相の君が宮のお言葉を伝えに、いざり入って行く後についていって、
「とてもあまりに暑苦しいご応対ぶりです。何事も、その場に応じて振る舞うのがよろしいのです。むやみに子供っぽくなさってよいお年頃でもありません。この宮たちまでを、よそよそしい取り次ぎでお話し申し上げなさってはいけません。お返事をしぶりなさるとも、せめてもう少しお近くで」などと、ご忠告申し上げなさるが、とても困って、注意するのにかこつけて中に入っておいでになりかねないお方なので、どちらにしても身の置き所もないので、そっとにじり出て、母屋との境にある御几帳の側に横になっていらっしゃった。

 宮の何やかやの長いお話にお返事を申し上げなさることもなく、ためらっていらっしゃるところに、源氏がお近づきになって、御几帳の帷子を一枚お上げになるのに併せて、ぱっと光るもの、紙燭を差し出したのかと驚く。
 螢を薄い物に、この夕方たいそうたくさん包んでおいて、光を隠していらっしゃったのを、何気なく、何かと身辺のお世話をするようにして、急にこのように明るく光ったので、驚いて、扇をかざした横顔は、とても美しい感じである。
「驚くほどの光がさしたら、宮もきっとお覗きになるだろう。私の娘だとお考えになるだけのことで、こうまで熱心にご求婚なさるようだ。人柄や器量など、ほんとうにこんなにまで整っているとは、さぞお思いでなかろう。夢中になってしまうに違いないお心を、悩ましてやろう」と、企んであれこれとなさるのだった。ほんとうの自分の娘ならば、このようなことをして、大騷ぎをなさるまいに、困ったお心であるよ。

別の戸口から、そっと抜け出て、お帰りになった。

 

《兵部卿宮は、六条院東邸の玉鬘のいる西の対の廂の間に招かれています。夕暮れが過ぎて曇りがちの宵、こういう時は香もよく薫るのだそうで、姫のいる母屋の中からその好い香りが風に乗って香ってきます。それに宮の衣にたきしめた香の匂いも合わさって、えも言えないいい雰囲気ができあがりました。宮自身も、歓迎されているらしいこともあって、おおいに心を動かされて、中の姫に語りかけます。

 実はその奥の部屋には源氏が忍んでいて、侍女の宰相の君が膝行して姫に近づく衣擦れの音に紛れて、自分も姫に近づき、もっと端近に出るように促します。

しかたなく玉鬘が隔ての几帳のそばに出て、宮の言葉を聞いているとき、源氏がそっと近づいて、その几帳の帷子の一重を挙げました。帷子は几帳の垂れた布で、「表、裏からなる。…その裏を几帳の手(横木)に掛けるのであろう」と『集成』が言います。

その、帷子が薄く透けるようになったところに、「ぱっと光るもの」、宮が驚いてのぞき込むと、中におぼろげながら姫の姿が浮かび上がっていました。源氏がたくさんの蛍を放ったのでした。

全く見事な、夏の夜の絵になる光景ですが、源氏は、宮の姫への今の関心は源氏の娘だからに過ぎまいが、実際の容姿を見たらもっと思いを募らせるだろう、その惑う様子が見てみたい、と考えたのだといいますから、まったくもって「困ったお心であるよ」と言いたくなります。

『評釈』によれば、この趣向は作者の発案ではなく、「同趣の話は少なくない」そうで、いろいろ挙げられていますが、これはずいぶん手が込んでいます。

源氏は、やることだけやって、あっさり帰ってしまいました。彼が見たいのは、これから恋心に惑う宮の姿なのであって、今日の顛末ではありません。彼は、こういうことについては自分は既に当事者である資格を離れて、一応第三者のつもりなのです。》

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第二段 兵部卿宮、六条院に来訪

【現代語訳】
 兵部卿宮などは、真剣になってお申し込みなさる。お骨折りの日数はそれほどたってないのに、五月雨になってしまった苦情を訴えなさって、
「もう少しお側近くに上がることだけでもお許し下さるならば、思っていることも、少しは晴らしたいものです」と、申し上げになさるのを、殿が御覧になって、
「何のかまうことがあろうか。この公達が言い寄られるのは、きっと風情があろう。そっけないお扱いをなさるな。お返事は、時々差し上げなさい」とおっしゃって、教えてお書かせ申し上げなさるが、ますますいやなこという気がなさるので、「気分が悪い」と言って、お書きにならない。
 女房たちも、特に家柄がよく声望の高い者などもほとんどいない。ただ一人、母君の叔父君であった宰相程度の人の娘で、嗜みなどさほど悪くはなく、世に落ちぶれていたのを探し出されたのが、宰相の君と言って、筆跡なども一応人並みに書いて、だいたいがしっかりした人なので、しかるべき折々のお返事などをお書かせになっていたのを、召し出して、文言などをおっしゃって、お書かせになる。お口説きになる様子を御覧になりたいのであろう。
 ご本人は、こうした心配事が起こってから後は、この宮などには、しみじみと情のこもったお手紙を差し上げなさる時は、少し心をとめて御覧になる時もあるのだった。特に関心があるというのではないが、「このようなつらい殿のお振る舞いを見ないですむ方法がないものか」と、さすがに女らしい風情がまじる思いにもなるのだった。
 殿はあらぬ思いでひとり心ときめかして宮をお待ち申し上げていらっしゃるのだが、ご存知なくて、まあまあのお返事があるのを珍しく思って、たいそうこっそりといらっしゃった。妻戸の間にお敷物を差し上げて、御几帳だけを間に隔てとした近い場所である。
 とてもたいそう気を配って、空薫物を奥ゆかしく匂わして、世話をやいていらっしゃる様子は、親心ではなくて、手に負えないおせっかい者の、それでも親身なお扱いとお見えになる。宰相の君なども、お返事をお取り次ぎ申し上げることなども分からず、恥ずかしがっているのを、「気が利かぬ」とおつねりになるので、まこと困りきっている。


《もう一人の求婚者、兵部卿宮は、三年前に正室を亡くして独り暮らしですから、特異と言ってもまともな方なのですが、少々浮気っぽく通う夫人方が多いということが大きな問題です。それに、いささか年長すぎる点も気になりますが、源氏が右近に語った時(胡蝶の巻第二章第五段)は、この人が一押しといった言い方でした。

その宮からはしきりに便りがあっていたのでした。源氏はその逐一を見て、面白がりながら返事をするようにアドバイスをしますが、玉鬘は渋っています。

 「五月雨になってしまった苦情」というのは、五月の結婚を忌む習慣があったことを言うようですが、その由来はどういうことなのでしょうか。西洋のジューン・ブライドの由来の一説に、農作業が多忙の三、四、五月に結婚を避けるので、六月の結婚が多いところからきたという説もあるそうで、案外同じようなことがあるのかも知れません。

源氏は、このままになってしまっては面白くないので、夕顔の叔父に当たる人の娘を代筆役に捜し出して、自分の指示で返事の手紙を書かせます。宮がどんなふうに口説くのかを見て楽しもうというわけです。

ところで、このころ玉鬘にはちょっとした心境の変化がありました。源氏からの愉快でない振る舞いを避けるのには、こうした男性と交際をするのも、一つのいい手段ではないかと思い始めたのです。特にこの宮なら源氏も文句が付けられなさそうです。

さてその宮が、源氏が書かせた代筆の手紙によって、忍んでやって来ます。

部屋は宮が姫と間近で話が出来るようにしつらえてあり、「空薫物を奥ゆかしく匂わして」あります。おそらく全てが源氏の指図なのでしょう。「妻戸の間にお敷物を差し上げて」について、『評釈』が、「簀子に腰打ち掛けて口説くのが普通なのだから、(こういう待遇は)玉鬘が宮に対してなみなみならぬ好意を示したと解釈されても弁解のできないところ」と言います。

そしてその奧に源氏が隠れて待ちかまえていて、宰相の君などをせっついて、取り次ぎを促します。なにやら、魂胆が、趣向がありそうな様子なのです。》


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第一段 玉鬘、養父の恋に悩む

巻二十五 蛍 光る源氏の太政大臣時代三十六歳の五月雨期の物語

第一章 玉鬘の物語 蛍の光によって姿を見られる

第一段 玉鬘、養父の恋に悩む

第二段 兵部卿宮、六条院に来訪

第三段 源氏、宮に蛍を放って玉鬘の姿を見せる

第四段 兵部卿宮、玉鬘にますます執心す

第五段 源氏、玉鬘への恋慕の情を自制す

第二章 光る源氏の物語(一) 夏の町の物語

第一段 五月五日端午の節句、源氏、玉鬘を訪問

第二段 六条院馬場殿の騎射

第三段 源氏、花散里のもとに泊まる

第三章 光る源氏の物語(二) 光る源氏の物語論

第一段 玉鬘ら六条院の女性たち、物語に熱中

第二段 源氏、玉鬘に物語について論じる

第三段 源氏、紫の上に物語について述べる

第四段 源氏、子息夕霧を思う

第五段 内大臣、娘たちを思う



【現代語訳】

 今は源氏がこのように重々しい身分ゆえに、何事にももの静かに落ち着いていらっしゃるご様子なので、お頼り申し上げていらっしゃる御方々は、それぞれ身の上に応じて、皆思いどおりに落ち着いて、不安もなく理想的にお過ごしになっている。
 対の姫君だけは、気の毒なことに、思いもしなかった悩みが加わって、どうしようかしらと困っていらっしゃるようである。あの大夫の監が嫌だった様子とは比べものにならないが、このようなことだと夢にも回りの人々が思い寄り申すはずのないことなので、自分の胸一つをお痛めになりながら、「変なことで嫌らしい」とお思い申し上げなさる。何事についてもご分別のあるお年頃なので、あれやこれやとお考え合わせになっては、母君がお亡くなりになった無念さも、改めて惜しく悲しく思い出される。
 大臣殿も、お口にいったんお出しになってからは、かえって心安まらずお思いになるが、人目を遠慮なさっていて、ちょっとした言葉もお掛けになれず、苦しい気持にもおなりになるので、頻繁にお越しになっては、お側に女房などもいなくてのんびりとした時には、穏やかならぬ言い寄りをなさるたびごとに、胸を痛めるばかりで、はっきりとお拒み申し上げることができないので、ただ素知らぬふりをしてお相手申し上げていらっしゃる。
 人柄が屈託なく人なつこくいらっしゃるので、とてもまじめに構えて用心していらっしゃるが、やはりかわいらしく魅力的な感じばかりが目立っていらっしゃる。


《巻の名前は、第一章第三段の「優艶な場面」(『集成』)にちなむものです。

さて、玉鬘を取り巻く男性の中でそれぞれ特異な立場を与えられた四人の内の一人、絶大な社会的権力を持った父親として彼女を庇護しながら、年甲斐もない恋心を抱いていて、しかも玉鬘に言い寄る他の人々が彼女に心を乱されるのを眺めて楽しもうとしているという源氏の状況は、「デカダンに陥ってい」る(『光る』)と言うしかないでしょう。

というより、その前にこの四人を設定したこと自体が、すでに全体としてデカダンな構想であると言えます。

源氏は周囲に自分の恋心を気づかれてはなりませんから、普段は「何事にももの静かに落ち着いていらっしゃるご様子」でいます。いかにも円満に落ち着いた六条院の中で、玉鬘だけがその源氏のために、いささか緊張した生活を強いられています。

そういう彼女を、まるでわざと刺激しからかうように、源氏が頻繁にやってきて、女房たちの隙を見ては、「穏やかならぬ言い寄りをなさる」のです。

玉鬘の方は、懸命に素知らぬ顔をして相手にしない態でいて、へいぜいから「とてもまじめに構えて用心していらっしゃる」のですが、その姿がまたいじらしくかわいらしく、源氏が心引かれるという、彼女にとってまことに厄介なことになっています。》

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