【現代語訳】3
 このように、引き止められなさる時々も多くあるのを、自然と漏れ聞く人が、大殿にも申し上げたので、
「誰なのでしょう。とても失礼なことではありませんか」
「今まで誰それとも知れず、そのようにお側にくっついたまま遊んだりするような人は、上品な教養のある人ではありますまい」
「宮中辺りでちょっと見初めたような女を、ご大層にお扱いになって、人目に立つかと隠していられるのでしょう。分別のない幼稚な人だと聞きますから」などと、お仕えする女房たちも噂し合っていた。
 お上におかれても、「このような女の人がいる」と、お耳に入れあそばして、
「気の毒に、大臣がお嘆きということも、なるほどまだ若輩だったそなたを一生懸命にこれまでに仕立て上げた大臣の心づくしがどれほどか、それがわからぬ年頃でもあるまいに。どうして薄情な仕打ちをなさるのだろう」と仰せられるが、恐縮した様子で、お返事も申し上げられないので、「女君がお気に入らないようだ」と、かわいそうにお思いあそばす。
「その一方では、好色がましく振る舞って、ここに見える女房であれ、またここかしこの女房たちなどと、浅からぬ仲に見えることもないし、噂も聞かないようだが、どのような人目につかない所にあちこち隠れ歩いて、このように人に怨まれることをしているのだろう」と仰せられる。

 

《こうして大殿への訪れが途絶えがちになるので、葵の上の女房たちからは不満が漏れます。しかしその不満は、源氏に対してではなくて、対抗する形になる女性に向けられているというのが、おもしろいところです。

 そしてその非難が、二条院の姫が幼い少女だと思いもしないままに、相手を「お側にくっついたまま遊んだりするような人」とか「分別のない幼稚な人」と評しているのが、なんともおもしろいところです。

その話が帝の耳に入り、源氏に対して意見をします。言葉としてはかなり厳しいもののように思いますが、すぐに「『女君がお気に入らないようだ』と、かわいそうにお思いあそばす」と思ったというのは、かわいいと思っている故の甘さで、意見もやや腰折れの感があります。

と、ここまででこの巻の主要な話は終わりです。ということは、源氏にとってこの三人の女性との交渉がこのままの状態でしばらく続いたということになります。

そしてその背後で起こった、ばかばかしいエピソードが語られるのが、次の一章です。》


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