【現代語訳】6

 あの邸に残った女房たちは、兵部卿宮がお越しになってお尋ね申し上げなさったが、お答え申し上げるすべもなくて、困り合っているのであった。

「暫くの間、他人には教えまい」と源氏の君もおっしゃるし、少納言の乳母もそう考えていることなので、固く口止めするように言い送っていた。ただ、「行く方も知れず、少納言の乳母がお連れしてお隠し申したことで」とばかりお答え申し上げるので、宮も仕方がないとお思いになって、

「亡くなった尼君も、あちらに姫君がお移りになることを、たいへん嫌だとお思いであったことなので、乳母がひどく出過ぎた考えから、おだやかに、お移しすることを不都合だ、などと言わないままに、自分の一存で、連れ出してどこかへやってしまったのだろう」と、泣く泣くお帰りになった。

「もし、消息をお聞きつけ申したら、知らせなさい」とおっしゃる言葉も、女房たちには厄介なことである。僧都の所にもお尋ね申し上げなさるが、行方が知れなくて、惜しいほどであったご器量など、恋しく悲しいとお思いになる。

 宮の北の方も、その母親を憎いとお思い申し上げておられた気持も消えて、自分の思いどおりにできようとお思いになっていた当てが外れたのを、残念なことにお思いになるのであった。

 姫の所には次第に女房たちが集まって来た。お遊び相手の童女や幼子たちもとても珍しく当世風なご様子なので、何の屈託もなくて遊び合っていた。

 姫は、男君がおいでにならなかったりして寂しい夕暮時などだけは、尼君を思い出し申し上げなさってつい涙ぐみなどなさるが、父宮は特にお思い出し申し上げなさらない。

最初からご一緒ではなく過ごして来られたので、今ではすっかりこの後の親を、たいそう馴れお親しみ申し上げていらっしゃる。外出からお帰りになると、まっさきにお出迎えして親しくお話をなさって、お胸の中に入って少しも嫌がったり恥ずかしいとは思っていない。そういう関係として、ひどくかわいらしい態度なのであった。

 智恵がつき、何かとうっとうしい関係となってしまうと、自分の気持ちと多少ぴったりしない点も出て来たのかしらと、心を置かれて、相手も恨み言もしがちになり、意外なもめ事が自然と出て来るものだが、これはまことにかわいらしい遊び相手である。

自分の娘などでも、これほどの年になったら、気安く振る舞ったり、一緒に寝起きなどは、とてもできないものだろうに、この人はとても風変わりな大切な娘であると、お思いのようである。

 

《物語として、兵部卿宮の方を片付けなくてはなりません。

結局、少納言が故尼君の気持ちを体して勝手に連れ出して行方不明になったということにします。

少納言も、こういう生活が始まってしまったのならば、待遇も手厚く、当面居心地も悪くないし、そもそも今更逆らいようもないのであってみれば、それしかないと腹を決めたということなのでしょう。宮は手がかりもなく、結局は諦めるよりありません。

それにしても、この宮夫婦の気持はちょっと引っかかります。宮は「惜しいほどであったご器量など、恋しく悲しいとお思いに」なったというのですが、自分の娘が見えなくなったというのに、その器量を気にする場合ではないではないでしょう。

北の方も、「母親を憎いとお思い申し上げておられた気持も消えて」はいいとして、「自分の思いどおりにできようとお思いになっていた」というのは、どうもあまりいいことを想像することができません。この二人は、この物語に出てくる人にしては珍しく、あまりいい人ではないようです。

弘徽殿女御は、悪役にされていますが、彼女の立場としては普通の考え方なのです。

姫は、宮家に行かなくて幸いだったと、読者はほっとできます。

源氏の配慮で、二条院では姫の周辺がますます整えられていき、それにつれて姫の源氏への親しみはいっそう増します。

あとはこの姫が無事に「紫の上」に生まれ変わるのを待つばかりです。

さて、この巻で源氏は、藤壺とのことによって、これからの半生、ずっとその責任を背負っていかねばならない大きな問題を抱えました。

そして一方で、同じようにこれからの半生、自分が責任を負うべき女性を得ました。

彼は、夕顔の巻で青春と決別して、この巻で一人の大人としての旅立ちをすることになったということです。》

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