【現代語訳】4

 夜が明けて行くにつれて見渡すと、御殿の造りざまや調度類の様子は改めて言うまでもなく、庭の白砂も宝石を重ね敷いたように見えて、光り輝くような感じなので、少納言は、場違いだときまり悪い思いでいたが、こちらの対には女房なども控えていないのであった。たまのお客などが参った折に使う部屋だったので、男たちが御簾の外に控えていた。

 このように女をお迎えになったようだと耳にした人は、「誰であろうか。並大抵の人ではあるまい」と、ひそひそ噂する。御手水やお粥などをこちらの対にお運びする。

日が高くなってお起きになって、

「女房がいなくて不便であろうから、しかるべき人々を夕方にはお迎えなさるとよい」とおっしゃって、東の対に童女を呼びに人をおやりになる。「小さい子たちだけ、特別に参れ」と言われたので、とてもかわいらしい格好をして、四人が参った。

 姫君はお召物にくるまって臥せっていらっしゃったのを、無理に起こして、

「こんなふうに情けない思いをさせないで下さい。いい加減な男はこのように親切にしましょうか。女性というものは気持ちの素直なのが好いのです」などと、今からお教え申し上げなさる。

 ご容貌は、遠くから見ていた時よりも美しいので、優しくお話をなさりながら、興趣ある絵や遊び道具類を取りにやってお見せ申し上げ、お気に入ることどもをなさる。

 やっと起き出して座って御覧になるが、鈍色の色濃い喪服のちょっと柔らかくなったのを着て無心に微笑んでいらっしゃるのがとてもかわいらしいので、ご自身もつい微笑んで御覧になる。

東の対にお渡りになったので、端に出て行って、庭の木立や池の方などをお覗きになると、霜枯れの植え込みが絵に描いたように美しくて、見たこともない四位、五位の人々の服装が色とりどりに入り乱れて、ひっきりなしに出入りしていて、「ほんとうに素晴らしい所だわ」と、お思いになる。御屏風類などの、とても素晴らしい絵を見ては、機嫌を良くしていらっしゃるのも、あどけないことだ。

 

《次第に夜が明け放れて、最初の一日が始まります。

少納言の、何の心準備もなくいきなり始まったまったく新しい生活の日の朝の、戸惑いから書き始められます。

そして、「こちらの対には女房なども控えていない」とありますが、これを『評釈』は、源氏の配慮で、連れて来られたままのみっともない服装をここの女房たちに見られたら、後々のどんな噂になるとも知れないからだと言っていて、なるほどと思われます。

少納言の気持として、男たちはともかく、女房たちに見られることがなく、とりあえず安堵したということを言っているわけです。

さらに、必要な女房を呼び寄せよとの言葉があります。姫にも、遊び仲間の童女、そして遊び道具と、行き届いた配慮がなされます。

源氏が姫に言う「女性というものは、気持ちの素直なのが好い」は、もちろん葵の上を意識しての言葉でしょう。

源氏が立っていったあと、姫は、先ほどやって来た子供たちといっしょに遊んでいて、あの山寺でもそうであったように、たまたま部屋の端近に走り出たのでしょうか、そこでは庭の様子も屏風の絵も、何もかもが「美しくて、見たこともない」情景です。

「荒れた、木立の手入れもされていなくて小暗く見える家」(第三章第一段【現代語訳】1節)からやってきた十歳の少女は、おさな心に思わず呆気にとられた様子で佇んでしまいますが、乳母のように「場違いだ」などとはつゆ思わない無邪気さで、すっかりここが気に入ってしまったのでした。》

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