【現代語訳】

小宰相にこっそりと、
「大将は、あの人のことをとてもしみじみと思ってお話になったので、おいたわしくて打ち明けてしまいそうだったが、その人ではないかもしれないからと、遠慮されて。あなたは、あれこれ聞いていましたね。不都合と思われるようなことは隠して、こういうことがあったと、世間話のついでに、僧都が言ったことを話しなさい」と仰せになる。
「御前様でさえ遠慮あそばしているようなことを、まして、他の者では」申し上げるが、
「いろいろな場合があるのです。また、私には具合の悪い事情があるのですよ」と仰せになるのも察して、素晴らしい心遣いだと拝する。

 立ち寄ってお話などなさるついでに、話を出した。珍しくも不思議なことだと、どうして驚かないことがあろう。

「宮がお尋ねあそばしたことも、このようなことを、いくらかお気づきになってのことだったのだ。どうして、すっかり話してくださらなかったのだろう」とつらい思いがするが、
「自分もまた初めからの様子を申し上げなかったのだから。こうして聞いた後にもやはり馬鹿らしい気がして、他人には全く話さないのだが、かえって他では噂になっていることもあろう。生きている人びとの中で隠していることでさえ、隠し通せる世の中だろうか」などと考え込んで、この人にも、これこれであったなどと打ち明けなさることは、やはり話にくい気がして、
「やはり、変だと思っていた女の身の上と、似ていた人の身の上だ。ところで、その人は、今も生きているのだろうか」とお尋ねになると、


《途中ですが、ここで区切ります。

中宮は、これ以上薫に話を聞くのはよくないと考えてやめたのですが、僧都から聞いた薫のお思い人らしい人の消息を、最後まで伝えないでしまうことはできないと考えたのでしょう、小宰相に、あなたから薫に話してあげなさい、と指示しました。

この人は、薫の思い人で(蜻蛉の巻第五章第一段)個人的に逢うこともあり、そして僧都が中宮に話したときに一緒に聞いており、またそれとは別に彼女の姉からも同じ話を聞いていて(第五章第五段)、事情に詳しい人です。

 彼女は、いったんは「御前様でさえ遠慮あそば」すようなことを、私ごときが、と断るのですが、「いろいろな場合が…」と言われ、さらに「私には…」と言われて、従うことにしました。『光る』が、「丸谷・(中宮の)その変なほのめかしで、パッと小宰相は(中宮の具合の悪い事情が)わかるんです。鈍感な人間は生きていかれない、たいへんな社会だったわけですよ。(笑)」と言います。

 さて、小宰相は薫が立ち寄ったおりに言い出しました。「お話など」の原文は「物語など」で『辞典』によれば「四方山話、雑談」ですから、ほんの世間話として、薫に関わる女性だなどとは思いもしないふうにさりげなく話した、ということでしょう。この人は、中宮がこの人なら大丈夫と認める人でした(蜻蛉の巻第五章第六段)から、そのあたりは心得たものだったのです。

「珍しくも不思議な…」は、それを聞いた薫の反応です。どう先日の中宮の様子は変だったと思い当たります。

「こうして聞いた後にも…」以下はつながりが分かりにくいところです。「他人には全く話さないのを…」、「生きている…」と三つの内容に分けて、それぞれをばらばらに「などと考え込んで」が受ける、と考えると、少し無理ですが、一応気持ちは分かるような気がしますが、どうなのでしょうか。

 わが身分に合わないみっともない女にこころを奪われてしまって「自分が笑いものになるような気がして」(『集成』)、自分からは誰にも何も話さなかったのだが、それでかえって噂になったのかも知れない、何しろ生きている人が秘密にしていることでも世間に知られるのだから、亡くなった人の噂は止める人もいないことで、すぐ広がるのだろうな、というようなことになります。

 そんな気持ちはおくびにも出さず、薫は、自分もそういう噂を聞いて興味を持っていたという体で、その人の安否を尋ねました。》

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