【現代語訳】

女の装束などは、色とりどりに美しくと思って襲ね着していたが、少し田舎じみたところが混じっていて、故人がとても着慣らして柔らかくなったお召し物のお姿で、上品に優美であったことばかりが思い出されて、
「髪の裾の美しさなどは、よく揃って上品だ。二の宮の御髪のたいそう素晴らしいのにも劣らないようだ」と御覧になる。

一方では、
「この人をどのように扱ってやるのがよいのだろう。今すぐに、重々しくあの自邸に迎え入れるのも、外聞がよくないだろう。そうかといって、大勢いる女房と同列にして、いい加減に暮らさせるのは望ましくないだろう。しばらくの間は、ここに隠しておこう」と思うけれども、会わなかったら寂しくかわいそうな気がなさるので、並々ならず一日中お話なさる。

故宮の御事もお話し出して、昔話を興趣深くこまごまと、冗談もおっしゃるが、ただとても遠慮深そうにして、ひたすら恥ずかしがっているのを、物足りないとお思いになる。
「間違っても、このように頼りないのはとてもよい。教えながら世話をしよう。田舎風のしゃれ気があって、品が悪く、軽はずみだったならば、身代わりにならなかったろうに」と思い直しなさる。

 

《改めて向き合ってみると、衣装もそれなりに気を配って合わせ着してはいるようですが、どうも少々田舎くさく、またしても大君の着こなしの見事さが偲ばれますが、まあ、髪の美しさは女二宮にも引けを取らないようだと、なにやら辻褄を合わせて収めた感じです。

 一方で、さて、この浮舟の処遇についてどうしたものかと、今ここに至っての思案のようですが、これまで、長く続いた宇治との交際の中での幾度もの贈り物にしても、匂宮を宇治に通わせる手はずを整えることについても、その他、さまざまに日頃見事に発揮されてきた彼の事務処理能力を思うと、大変意外な気がします。

振り返ってみると、宇治で弁に、京に上って浮舟を口説いてほしいと頼み込んでから、いったい彼は何をしていたのでしょうか。ことが計画的に運ばれた割には、収めどころが抜けているなどは、まったく彼らしくありません。

ともあれやり方は三択のようで、「しばらくの間は、ここに隠しておこう」と考えます。ここに置いておけば心配はなく、しかも少々遠いとは言え、自由に逢うことができる場所です。「外聞がよくないだろう」は、「女二の宮に憚る気持ち」(『集成』)と言います。

そう腹が決まると、話をして相手をしますが、どうも反応が今一つで、またしても「物足りない」と、大君を思ってしまいます。

それも、まあ、「間違っても」(同じ悪いにしても、というほどの意味でしょうか)品悪くはねっかえりであるよりも、「頼りない」方がまだ陶冶性があるだけいいだろうと、ここでも自分の気持ちに折り合いをつけたような感じです。

それにしても、ここまで、源氏が藤壺に似ているということで紫の上を連れ去ったのとそっくりの展開ですが、どうも双方ともにレベルの違いがありそうで、大丈夫だろうかと気になります。》

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