【現代語訳】2

 たいそうこちらが気恥ずかしくなるほど優美で、また今日一段と立派におなりになったことだと、目も驚くほどはなやかに美しく、ただもう、誰にも似ない心ばせなど、何とも素晴らしい方だとお見えになるのを、姫宮は、面影の離れない方の御事までお思い出し申し上げなさって、まことにしみじみと見申し上げなさる。
「つきないお話なども、今日は言忌みしましょうか」などと言いさして、
「お渡りになるはずの所の近くに、もう幾日かして移ることになっていますので、『夜中も早朝も』と親しい間柄の人が言いますように、どんな時にも、親しくお声をおかけ下されば、この世に生きております限りは、お話しもし承りもして過ごしたく思っていますが、どのようにお考えでしょうか。人の考えはいろいろの世の中ですので、かえって迷惑かなどと、独り決めもしかねるのです」と申し上げなさると、
「邸を離れまいと思う考えは強くございますが、近くに、などとおっしゃって下さるにつけても、いろいろと思い乱れまして、お返事の申し上げようもなくて」などととぎれとぎれに言って、ひどく悲しく思っておいでの様子などが、とてもよく似ていらっしゃるのを、

「自分から進んで他人の妻にしてしまった」と、とても悔まれる思いでいらっしゃるけれども、言っても効がないので、あの夜のことは何も言わず、忘れてしまったのかと見えるまで、きれいさっぱりと振る舞っていらっしゃった。

 

《中の宮がしぶしぶながら薫と向き合ってみますと、彼の「一段と立派におなりになった」様子に改めて見直す気がして、亡くなった姉のことも思って、「まことにしみじみと見申し上げ」るのでした。

 ということは、中の宮は大君の薫に寄せる好意をかなりのところまで知っていたということでしょうか。語られてはいませんでしたが、もともと仲の好かった二人ですから、当然考えられることです。

 薫は、めでたい日なので亡くなった人のことは話すまいと「言忌み」を約束して(「言いさして」とは、その話は早々に切り上げて、ということでしょうか)、都での生活でも力になりたいと申し出ます。

中の宮が都で住むところは二条院、薫は先に焼けた三条院を再建しようとしているので(総角の巻末)、近くだから、いつでもお会いできます、というのですが、それを「かえって迷惑かなどと、独り決めもしかねるのです」というのは、ずいぶん持って回った物言いです。普通は、どうぞお声を掛けて下さいと言っておいて、あとは相手の出方次第とするところだと思われます。こういう言い方は、過度に相手の意志に下駄を預けた形で、かえって押しつけがましく、しかも思わせぶりで余計な一言だという気がしますが、ここはそういう意味で書かれたのではなく、やはり彼の気配りを示したかったのでしょう。

中の宮は「いろいろと思い乱れまして、お返事の申し上げようもなくて」と、賢明な返事で返します。

「ひどく悲しく思っておいでになる」は諸注、「あなた様もこの宇治と疎遠になられるのか、という気持ちであろう」(『集成』)というように説明してます。とすると、ここで彼女が言っていることは、なかなか微妙なことのように思えます。自分は都に行かなければならないが、あなたには、折々宇治に通って世話をしていてほしい、それによって、自分自身は都にあっても、宇治はいつまでも心のよりどころになるだろう、というようなことでしょうか。彼女にとって薫は、都で「近く」にいるよりも、宇治の世話をしてくれる人としての方が大切に思えているというようなことになりそうです。

薫にとっては望ましい方向ではないはずですが、彼はそんなことよりも、そうもの思わしげに語る中の宮に大君の面影を感じながら、しかし何事もないように、あくまで彼らしく振舞います。》

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