【現代語訳】2
 宵を少し過ぎたころに、風の音が荒々しく吹いて、頼りないことになっている蔀などはきしきしと鳴る紛らわしい音に、

「人が忍び入っていらっしゃる音は、お聞きつけになるまい」と思って、静かに手引きして入れる。
 同じ所にお寝みなっているのを気がかりだと思うが、いつものことなので、

「別々にとはどうして申し上げられよう。ご様子も、よくお分かりにならないなどということはないだろう」と思ったのだが、少しもお眠りにならないので、すぐに足音をお聞きつけになって、そっと起きて抜け出しておしまいになる。とても素早く這ってお隠れになる。無心に寝入っていらっしゃるのを、とてもお気の毒に、どうしたらよいだろうと胸がつぶれて、一緒に隠れてしまいたいと思うが、そのように立ち戻ることもできず、震えながら御覧になると、灯りがほのかな中に、袿姿で、いかにも馴れた様子で几帳の帷子を引き上げて中に入ったので、ひどくおいたわしくて、

「どのようにお思いになるだろう」と思いながら、粗末な壁の面に屏風を立てた後のむさ苦しい所にお座りになる。
「将来の心積もりとして話しただけでも、つらいと思っていらっしゃったのを、まして、どんなに心外にお疎みになるだろう」と、とてもおいたわしく思うにつけても、まったくしっかりした後見もいなくて、落ちぶれてこの世に残る二人の身の上の悲しさを思い続けなさると、今を限りと山寺にお入りになった父宮の夕方のお姿などが、まるで今のような心地がして、ひどく恋しく悲しく思われなさる。

 

《夜になって吹き出した風の音に紛れて、弁の君が薫を二人の部屋に導き入れます。

 今更ですが、強盗や暴行目的ならともかく、こうして姉妹が一緒に寝ていても、その一方を恋い慕って入り込む男の感覚は理解しがたく思われますが、ことが成就するときは、一方は黙って部屋を出るとかという、暗黙の了解があるのでしょうか。

 弁の君は、さすがにそのことを気にしますが、しかし薫が相手を間違えては困るがという、私たちの心配とはまったく別の方向で、それもまあ見ればお分かりだろうと、ことを進めます。

 と、大君は眠れないでいて、その足音を聞きつけて、思ったとおりだったと、そっと床を抜け出して屏風の陰に隠れてしまいました。

こういう時、これもまた今さらですが、どうして、逃げ出さないで、例えば入って来たらしい者に声を掛けるとか、わざと妹に語り掛けるとか、しないのかと思いますが、そういうことはすべきことではないのでしょう。どう考えるのでしょうか。女性には多くの制約があって、まったくの受け身だったということのようです。

 さて、中の宮は何も知らずに眠っています。大君は妹のことが気になるのですが、今さら迎えに出ても行けず、もともとこの人を薫に嫁がせることを考えていたこともあるからなのでしょうか、屏風の陰から成り行きを見ています(それもまた、姉としていかがなものかという気がしますが…)。

 彼女は妹の驚きや恥ずかしさを思って胸を痛めながら、もし父宮がいてくださったらどんなに心強かろうにと「恋しく悲しく」思うのでした。『評釈』はそれを父在世のころの安心していられた時代を恋しく思ったというように解説していますが、こういう場合にそういう感傷的なことを思うのでしょうか。

彼女は、こうして薫と中の宮がうまく結ばれることを本気でいいことと考えて、そうなったときに父がいてくれることが望ましかったと思っているのではないでしょうか。少なくとも彼女は、妹を驚かせて悪いとは思っても、非道なことをしているとは思っていないように見えます。》

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