【現代語訳】

「母宮が生きていらっしゃるうちは、朝夕にお側を離れずお目にかかりお仕え申し上げることを、せめてもの孝養に」と思っておっしゃるので、右大臣も、大勢いらっしゃる姫君たちを誰か一人はとお思いになりながら、口にお出しになることができない。

「なんといっても、内輪の知れすぎた間柄なので」と思ってはみるが、

「この君たちを措いて、他に肩を並べるような人を探し出せそうにない」とお困りになる。
 れっきとした姫君よりも、典侍腹の六の君とかが、たいそう素晴らしくて美しく、気立てなども十分で成人なさっているのを、世間の評判が低いのもこのように惜しいのを不憫にお思いになって、一条宮がそういうお世話をする人をお持ちでなく手持ち無沙汰なので、引き取って、差し上げなさった。
「わざわざとではなくてこの方々に一度お見せしたら、きっと熱心になるにちがいなかろう。女性の美しさが分かる人は、特に格別であろう」などとお思いになって、特別厳しくお扱いにはならず、今風に趣あるようにしゃれた暮らしをさせて、人が熱心になるような工夫を沢山凝らしていらっしゃる。


《そういう魅力的な薫を間近に見ていた右大臣・夕霧が、それでは自分の娘をと思い立ちました。一方で近親過ぎて(薫は形の上では夕霧の弟、その娘と薫は叔父と姪の間柄となります)面白くないとは思うものの、他に適当な男性がいないのでした。

 余り近親同士の結婚は面白くないというのは、かつて彼自身も雲居の雁の父から言われたことがありました(少女の巻第四章第一段)。

さて、娘の中で誰を、と考えると、「典侍腹の六の君」が最も有力に思われます(第一章第二段)。しかし「典侍腹」では位で見劣りするので、それを一条宮に預けて箔を付けさせることにしました。そうしておいてさりげなく薫や匂宮に見せたら、必ずや心引かれるだろうと、「特別厳しくお扱いにはならず」、つまり深窓に秘蔵するのではなく、「今風に」オープンにして「人が熱心になるような工夫を沢山凝らし」ます。

何やら源氏が玉鬘を引き取った時のような雰囲気ですが、さすがに真面目なこの人は、源氏のようにその時の男性たちの様子を窺って楽しもうというようなけしからぬことは考えないで、あくまでも婿選びが主眼ではあったようです。

いや、あるいは当時の人にとってはこの場合源氏の方がそれこそ風流な企てだったのであって、夕霧のあくまで実務的な考え方が笑われるべきであったのかも知れないのですが…。》


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