【現代語訳】

 右近も、ほほ笑みながら拝見して、

「親と申し上げるには、似合わないほど若くていらっしゃるようだ。ご夫婦でいらっしゃったほうが、お似合いで素晴しかろう」と、思っている。
「けっして殿方のお手紙などは、お取り次ぎ申ることはございません。以前からご存知で御覧になった三、四通の手紙は、うって変わった対応で間の悪い思いをおさせ申し上げてもどうかと思って、お手紙だけは受け取ったりなど致しておりますようですが、お返事は特別にお勧めあそばす時だけでございます。それだけでさえ、気の進まぬことに思っていらっしゃいます」と申し上げる。
「ところで、この若々しく結んであるのは誰のだ。たいそう綿々と書いてあるようだな」と、にっこりして御覧になると、
「あれは、しつこく言って置いて帰ったものです。内の大殿の中将が、ここに仕えているみるこを、以前からご存知だった、その伝てでことづかったのでございます。その他に気を付ける者がおりませんでして」と申し上げると、
「たいそうかわいらしいことだな。身分が低くとも、あの人たちをどうしてそのように失礼な目に遭わせることができようか。公卿といっても、あの人の声望に必ずしも匹敵するとは限らない人が多いのだ。そうした人の中でも、たいそう沈着な人だ。いつかは分かる時が来よう。はっきり言わずに、ごまかしておこう。見事な手紙であることだ」などと、すぐには下にお置きにならない。

 

《源氏は玉鬘を人のものにしたくないという気持に密かに抱いているのですが、右近もまた、二人を「ご夫婦でいらっしゃったほうが、お似合いで素晴しかろう」と、同じような気持でいたのでした。

確かに、自分から父親となろうと言ったことを除けば、特に不自然な話ではありません。年齢は三十六歳と二十一歳くらいで、やや離れてはいますが、必ずしも驚くほどとは言えないでしょう。

しかし、ここはそういうことよりも、源氏がいかに魅力的であるかということを、右近の立場から言わせたという意味の方が大きいようで、それがすむと話はすぐに、先ほどの「若々しく結んである」手紙の主の話になります。ここに来た時から源氏の気になっていたものです。

それは実は内大臣の息子の中将からのものなのでした。中将が、人の少ない時にやってきて、たまたま居合わせた、「以前からご存知だった」「みるこ」という名の童女に託したものだったと、右近が弁解気味に説明します。

源氏は「たいそうかわいらしいことだな(原文・いとらうたきことかな)」と、大満足の態です。失礼な目に遭わせられないと言いながら「いつかは分かる時が来よう」(二人が姉弟だという事情が分かる時があると言っているのでしょう)と、自分から仕組んでおいて、それをしばらくは放っておいて見ていようというのですから、ずいぶん罪な話です。

作者がこういう源氏をまったく咎める様子がないところを見ると、立場の弱い者をもてあそぶようなことが一般的に行われていたということのように思われて、人道などという考え方は時代的に臨むべくもないのは当然としても、なお、鞏固な身分制社会の怖さが感じられて、ちょっと堪らない気がします。》

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