【現代語訳】1

 年の暮に、お飾りのことや女房たちの装束などを、高貴な夫人方と同じようにとお考えになっておいでなのだが、あのように一人前に見えても、田舎めいている点もありはしないかと山里育ちのように軽んじ想像申し上げなさって、こちらで仕立てたのも一緒に差し上げなさる折に、我も我もと技を競って織っては持って上がった細長や小袿の色とりどりでさまざまな織物を御覧になって、
「たいそうたくさんの織物であることだ。それぞれの方々に、羨みがないように分けないといけないね」と、紫の上に申し上げなさるので、御匣殿でお仕立て申したのも、こちらでお仕立てさせなさったのも、みな取り出させなさる。
 紫の上は、このような方面のことは、それはまたとても上手で、世に類のない色合いや艶を染め出させなさるので、めったにいない人だとお思い申し上げになさる。
 あちらこちらの擣殿から進上したいくつもの擣物をお比べになって、濃い紫や赤色などをさまざまお選びになっては、いくつもの御衣櫃や衣箱に入れさせなさって、年配の上臈の女房たちが伺候して、「これは、あれは」と取り揃えて入れる。紫の上も御覧になって、
「どれもこれも、劣り勝りの見えないもののようですが、お召しになる人のお顔立ちに似合うように選んで差し上げなさい。お召し物が姿に似合わないのは、みっともないことですから」とおっしゃると、大臣も笑って、
「それとなく、他の人たちのご器量を想像しようというおつもりのようですね。では、あなたはどれをご自分のにとお思いですか」と申し上げなさると、
「それは鏡で見ただけでは、どうして決められましょうか」と、そうは言ったものの恥ずかしがっていらっしゃる。


《田舎から上ってきたばかりでバックの何もない玉鬘に、正月の衣裳で恥を掻かせてはならないと、源氏は、自分の方で仕立てた装束を贈ることにしました。

そういう話を聞くと、職人達が「我も我もと技を競って織っては持って上が」るということになるようで、それが「御匣殿でお仕立て申したの」のようです。

その一方で、『評釈』によれば、「紫の上御自身もしあげたものが多い」のだそうで、それが「こちらでお仕立てさせなさったの」です。単に立ち上がった姿さえほとんど語られることがない高貴の人が、手づから染め付けの作業をするというのは、意外な気がしますが、「当時にあってはそれが一つの仕事なのである」(同)のだそうです。

その双方をまとめて「あちらこちらの擣殿から進上したいくつもの擣物」ということになるのでしょうか、ともかく大変な数の衣裳が揃いました。それは玉鬘一人にという料ではなかったようで、「それぞれの方々に、羨みがないように分けてやるとよい」ということになって、ずらりと並べて華やかな品評会です。作者を含む女房たちにとって、垂涎の光景で、このあたりは、これでもかといった調子で力を込めて語られているように思います。

紫の上が上臈の女房に「お召しになる人のお顔立ちに似合うように選んで差し上げなさい。お召し物が姿に似合わないのは、みっともないことですから」という、微妙な注文をしました。行き届いた配慮で、その衣裳を身につけている先方の姿を思い描きながら選べ、ということなのでしょう。

すかさず源氏に、それであなたはどれを選ぶかと言われて、顔を赤くして恥ずかしがっているとは、まったくカマトトではないかと思わせるほどの、かわいい純情ぶりです。彼女には、源氏の邸を仕切る第一人者としての顔と、そういう少女のような顔との両面が、バランスよく備わっているのです。》

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