【現代語訳】2

大宮は夢にも御存知なかったことなので、あきれておしまいになって、
「なるほど、そうおっしゃるのもごもっともなことですが、ぜんぜんこの二人の内心を知りませんでした。なるほどとても残念なことですが、それは、こちらこそあなた以上に嘆きたいくらいです。子どもたちと一緒に私を非難なさるのは、恨めしいことです。
 お世話致してから、特別に大事に思いまして、あなたがお気づきにならないことも立派にしてやろうと、内々に考えていたのでしたよ。まだ年端もゆかないうちに、親代わりの心の盲目から、急いで結婚させようとは考えもしないことです。
 それにしても、誰がそのようなことを申したのでしょう。つまらぬ世間の噂を取り上げて、容赦なくおっしゃるのも、つまらないことで、根も葉もない噂で姫君のお名に傷がつくのではないでしょうか」とおっしゃると、
「どうして、根も葉もないことでございましょうか。仕えている女房たちも、陰ではみな笑っているようですのに、とても悔しく、面白くなく思われるのですよ」とおっしゃって、お立ちになった。
 事情を知っている女房どうしは、実におかわいそうに思う。先夜の陰口を叩いた女房たちは、それ以上に気も動転して、「どうしてあのような内緒話をしたのだろう」と、一同後悔し合っていた。

 

《婿の源氏に夕霧の教育について説かれた時は、嘆きながらも引き下がった大宮でしたが、息子の愚痴っぽい恨み節には真っ向から反論します。

 もちろん息子の方が遠慮がいらないということもあるでしょうが、やはりその話の内容によることが大きいでしょう。

あの娘(雲居の雁)をかわいく大切だと思うのは私の方が上だと言わんばかりです。私は「あなたがお気づきにならないことも立派にしてやろう」と考えていた、つまり、あなたはあの子を私に預けっぱなしで、何にもしてこなかったではないですか、それを今、そういう疑いがあるからと言って、「つまらぬ世間の噂」をもとに私を責めるのは筋違いだ、という気持でいるわけです。

しかし、そうでなくても苛立っている息子の方は、収まりません。「世間の噂」ではなく、すぐ身近の女房たちの陰口だと言ってしまいましたから、今度は当の女房たちも巻き込むことになりました。側耳を立てて成り行きを窺っていた、陰口の覚えのある女房たちは、この後どういう顔をして大宮の前に出られようかと、「気も動転して」しまいます。

内大臣の怒りから、大山鳴動、大宮邸は蜂の巣をつついた、といった案配です。》


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