【現代語訳】

 入道の宮は、兵部卿の宮が姫君を早く入内させたいとお世話に大騒ぎしていらっしゃるらしいのを、内大臣とお仲が悪いので、「どのようにご待遇なさるのかしら」と、お心を痛めていらっしゃる。
 権中納言の御娘は、弘徽殿の女御と申し上げる。大殿のお子として、たいそう美々しく大切にお世話なされている。主上もちょうどよい遊び相手に思し召されている。
「兵部卿の宮の中の君も同じお年頃でいらっしゃるので、おかしなお人形遊びの感じがするだろうから、年長のご後見は、まこと嬉しいこと」とお思いになり、仰せにもなって、そのようなご意向を幾度も奏上なさる一方で、内大臣が万事につけ行き届かぬ所なく、政治上のご後見は言うまでもなく、日常のことにつけてまで、細かいご配慮がたいそう情愛深くお見えになるので、頼もしいことにお思い申し上げていたが、ご自身がいつもご病気がちでいらっしゃるので、参内などなさっても、心安くお側に付いていることも難しいので、少しおとなびた方でお側にお付きするお世話役が、是非とも必要なのであった。

 

《冷泉帝を巡る女性が三人になりました。

ここに挙げられた順に、藤壺の兄で紫の上の父・兵部卿宮の中の君、そしてかつての頭中将・権中納言の娘、十二歳(権中納言の父・太政大臣である大殿の養女として既に弘徽殿の女御として入内しています)、そして新たに源氏と藤壺の推す前斎宮、の三人です。

女御以外の二人とも、とすれば問題無さそうですが、そうもいかないのでしょうか。二人の争いになります。

その中で宮の中の君と弘徽殿の女御は十一歳の帝と同年代で、斎宮は二十歳とたいへん年長なのですが、藤壺は「年長のご後見は、まこと嬉しいこと」と考えました。現代では話にならない年です(もっとも、現代でもひと歳とった人の間では、もっと差があっても結ばれる例もあるようです)が、生活の知恵として、男の子の成長にはこういう年かさの女性は案外大切な存在とも言えます。

そしてその前斎宮の入内を、帝の母が推し、源氏が全面的にバックアップするわけで、藤壺は、「どのようにご待遇なさるのかしら」と、心を痛めながらも、兄よりも源氏を選んだのです。

さて、そしてここでも、こういう大きな問題を残したまま、次号完結といった趣で余韻を残してこの一巻を閉じて、しかし、次の巻からしばらく話は別のところに向かいます。》

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