源氏物語 ・ おもしろ読み

ドストエフスキーの全著作に匹敵する(?)日本の古典一巻を 現代語訳で読み,かつ解く,自称・労大作ブログ 一日一話。

第二段 大君、匂宮と六の君の婚約を知る

【現代語訳】

この君のお供の人で、いつのまにかここの若い女房と恋仲になった者があった。それらの話で、
「あの宮が、お出かけを禁じられなさって、内裏にばかり籠もっていらっしゃることよ。右の大殿の姫君と結婚おさせ申しなさるらしい。女君の方は長年のご本意なので、おためらいになることもなくて、年内に行われると聞いている。
 宮は気が進まなくお思いで、内裏辺りでも、ただ好色がましいことにご熱心で、帝や后の御意見にもお静まりそうもないようだ。
 私の殿は、やはり人にお似にならず、あまりに誠実でいらっしゃって、人からは敬遠されておいでだ。ここにこうしてお越しになるだけが、目もくらむほどで並々でないことだ、と人が申している」などと話したのを、「そのように言っていた」などと、女房たちの中で話しているのをお聞きになると、ますます胸がふさがって、
「もうお終いだわ。高貴な方と縁組がお決まりになるまでのほんの一時の慰みに、こうまでお思いになったが、さすがに中納言などの思惑をお考えになって、言葉だけは深いのだったのだ」とお思いになると、とやかく宮のおつらさは考えることもできず、ますます身の置き場所もない気がして、落胆してお臥せりになった。
 弱ったご気分には、ますます世に生き留まることもできそうにない。気のおける女房たちではないが何と思うかとつらいので、聞かないふりをして寝ていらっしゃったが、大君は、「物思ふ時のわざ(物を思う時によくすること)」と聞いていたうたた寝のご様子がたいそうかわいらしくて、腕を枕にして寝ていらっしゃるところに、お髪がたまっているところなど、またとなくかわいらしい感じであるのを見やりながら、親のお諫めも繰り返し繰り返し思い出されなさって悲しいので、
「罪深い人が行くという地獄には、よもや落ちていらっしゃるまい。どこでもよいから、おいでになるところにお迎えください。このようにひどく物思いに沈む私たちをお捨てになって、夢にさえお見えにならないこと」とお思い続けなさる。

 

《薫が京へ帰ってしまった後、宇治では大変なことが起こりました。

薫の供をしてきた男が、ここでなじみになっていた女房に話した話が、女房たちの間でひそひそと交わされていたのです。

 中の宮のところに通われる宮は、京で、右大臣の姫と結婚されるらしい、宮中でも「好色がましいことにご熱心で」いらっしゃるそうだ、…。

以下のご主君・薫についての話はどういう意味なのでしょうか。我が薫様がここに通われるのも、人から敬遠されるほど生真面目な人だからであって、人から見れば「目もくらむほどで並々でないこと」なのだから、とてもそういう匂宮様がまじめに通って来られるとは思えない、…ということのように読めます。ということは、また、薫が通って来ることも、そういつまでも続くものではあるまい、と言っているとも思えます。

そういう話が耳に入った大君は、やっぱり心配したとおりになってしまった、もはや取り返しがつかない、こういうことになったのは、自分が仕組んだことなのだとただ一途に思い込み、「身の置き場所もない気がして」、目の前が真っ暗になった気持ちです。
 このことが、薫が帰った後で起こったというのが、いかにもありそうな話で、しかも大君は事の真偽を確かめる手立てもないことになり、うまい話の展開です。
 
ここの「宮のおつらさ(原文・人の御つらさ)」は、匂宮自身が来られないことをつらく思っていることのように思えますが、諸注は、宮の不実、冷たさと解しています。古語の「つらし」は「人の仕打ちを、こらえかねるほどに痛く感じる意」(『辞典』)で、「御」とあることからも、やはりその方がよさそうです。

つまり大君は、匂宮を恨んだりするより先に、このようにことを運ぶことになった自分を責めているということで、この人の慎ましさ、自省的な人柄が強調されているわけです。

そんな時に、目の前に昼寝をしている妹の顔がありました。昼寝をするのは夜眠れなかった証し、切ない思いをしながら、かろうじて今ひととき「たいそうかわいらしくて、腕を枕にして寝ていらっしゃる」姿を見ると、いとおしく、私が至らないばかりにこんな苦労をさせてしまったと、またしても父宮の遺訓を思い出して、つらく恋しく、早く父のもとに行きたいという気持ちばかりが募ります。》

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第一段 薫、大君の病気を知る~その2

【現代語訳】2

 夜毎にさらにとても苦しそうになさったので、他人がお側近くにいる感じも中の宮が気になさっているので、
「やはり、いつものように、あちらに」と女房たちが申し上げるが、
「いつもより、このようにご病気でいらっしゃる時が気がかりなので。心配のあまりに参上して、外に放っておかれては、とてもたまりません。このような時のご看病も、誰がしっかりとお世話できましょうか」などと、弁のおもとにご相談なさって、御修法をいくつも始めるようにおっしゃる。

「たいそう見苦しく、わざとでも捨ててしまいたいわが身なのに」と聞いていらっしゃるが、相手の気持ちを顧みないかのように断るのもいやなので、やはり生き永らえよと思ってくださるお気持ちもありがたく思われる。

翌朝、

「少しはよくおなりですか。せめて昨日のようにしてお話し申したい」と言われるので、
「幾日にもなるせいか、今日はとても苦しくて。では、こちらに」とお伝えになった。たいそうおいたわしく、どうおなりになるのだろうか、以前よりは優しいご様子なのも、胸騷ぎして思われるので、近くに寄っていろいろのことを申し上げなさる。
「苦しくてお返事ができません。少しおさまりましてから」と言ってまことにか細い声で弱々しい様子なのを、この上なくおいたわしくて嘆いていらっしゃる。

そうはいっても、所在なくこうしておいでになることもできないので、まことに不安だが、お帰りになる。
「このようなお住まいは、やはりよくなかったのです。場所をお変えになる折に、しかるべき所にお移し申そう」などと申し上げおいて、阿闍梨にも、御祈祷を熱心にするようお命じになって、お出になった。

 

《いつも夜になると余計に具合が悪くなるので、中の宮が姉を案じて、傍に遠慮のある人がいてはたまらないだろうと、女房たちに薫を下がってもらうように言わせますが、薫はせっかく来たのに追い払うのかと怒ったふりをした感じで、「看病」の指図をし、「修法」を行わせて、傍を離れようとしません。

 一方大君も、中の宮の心配にも拘らず、「やはり生き永らえよと思ってくださるお気持ちもありがたく」思って、それを受けています。大君の気持ちはずいぶん和らいでいるのでしょう。というより、もともと信頼していなかったのではない人なのです。

 ちょうど明石の君が源氏との結婚を、初めかたくなに拒否していた時(明石の巻第五章第一段)と同じように、好ましい人だとは思いながら結婚がもたらす悲哀を恐れ、これまで不運な経験を多くしてきた分だけその気持ちがさらに明石の君よりも徹底しており、また一面、薫に源氏ほどの魅力や強引さがないだけにそれを突破できなかったということもあって、そのままに今日に至っているだけなのです。

 翌朝も、大君は具合がよくないのですが、それでも薫の求めに応じて「昨日のように」、つまり「お部屋の御簾の前にお入れ」(前段)します。

 以前と違って「優しいご様子(原文・なつかしき御けしき)」を見て、薫は嬉しいよりも心配でたまらなくなりました。話をしても「まことにか細い声で弱々しい様子」です。

 と言いながら、薫はのんびりと長居もならず帰ることにしました。帰り際に、以前考えていた大君の京への転居のこと(第四章八段)を話しますが、半分は自分に言い聞かせて気持ちを休める感じです。》

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第一段 薫、大君の病気を知る~その1

【現代語訳】1

 お待ち申し上げていらっしゃる所では、長く訪れのない気がして、「やはり、こうなのだ」と心細く物思いに沈んでいらっしゃるところに、中納言がおいでになった。ご病気でいらっしゃると聞いての、お見舞いなのであった。ひどく気分が悪いというご病気ではないが、病気にかこつけてお会いなさらない。
「びっくりして遠くから参ったのに、ぜひあちらのご病人のお側近くに」と、しきりにご心配申し上げなさるので、くつろいで休んでいらっしゃるお部屋の御簾の前にお入れ申し上げる。

「たいそう見苦しいこと」と迷惑がりなさるが、そっけなくはなく、お頭を上げてお返事など申し上げなさる。
 宮が不本意ながら素通りなさった様子などを、お話し申し上げなさって、
「安心してください。いらいらなさってお恨み申し上げなさいますな」などとお諭し申し上げなさると、
「妹の方は別に何とも申し上げなさらないようです。亡き親のご遺言はこのようなことだったのだと思われて、かわいそうなのです」と言って、お泣きになる様子である。まことにおいたわしくて、自分までが顔向けできない気がして、
「夫婦仲というものは、いずれにしても一筋縄でゆくことは難しいものですから、いろいろなことをご存知ないあなた方には、ひとえに恨めしいと思いになることもあるでしょうが、じっと気長に考えなさい。心配なさることはまったくないと存じます」などと、他人のお身の上まで世話をやくのも、一方では妙なことだという気がなさる。

《匂宮が禁足の日々をそれなりにあでやかな気晴らしで過ごしているころ、宇治では、すっかり訪れのなくなったことで、心を痛めた大君の具合も悪く、重い空気が流れていました。その大君の様子を聞いて薫がやって来ます。

 大君は、また相も変わらず同じようなことを迫られると思うと、とても会う気になどなれないのですが、薫がたってと願うので、お傍近くまでお入れしました。

 そうとなれば大君も失礼のない大人の対応をします。いや、薫が妙な無理押しさえしなければ、彼女自身にも薫を近くに感じていたい気持ちがあると考える方がよさそうです。父宮の一周忌の準備に来た秋の日の、初めて語りあって夜を過ごした時(第一章第五段1節)以来、そういう気持ちはずっと続いているのでしょう。

 向き合って、薫がまず話さなければならないのは匂宮のことです。あの紅葉狩りの日、彼は決して好んで帰ったのではなく、どうしようもなかった事情を話して、信じていいのだと「お諭し申し上げ」ます。

大君は、妹自身は何も言わないながら、そうした諸々すべてを含めて、父の言葉が重く思い出されて、妹があわれで泣くしかありません。

 すべてが自分のしたことの結果と思うと薫は「自分までが顔向けできない気がして」とかく慰めているうちに、夜になりました。》

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